アフガニスタンからの邦人退避②:判断の遅れ
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昨日に続き、アフガニスタンからの邦人等退避の課題です。
陸上自衛隊トップの吉田圭秀陸上幕僚長は、8月26日の会見で、アフガニスタンに関して、次の様に発言し、現地の危険性と状況把握の困難性を指摘されました。
「今回はアメリカ軍が今月末を撤収期限としており、早期に現地に入り、活動を開始しなくてはならないという特性がある。また現地の情勢は非常に流動的で、現地と日本国内の指揮官が柔軟に運用を進めていくことが大切だ」
「在留邦人などを把握する外務省、タリバン側、アフガニスタンの他国軍とも連絡を取りながらやらねばならないオペレーションだろうと感じる。あらゆる手段で情報収集し任務を進めていくことが重要だ」
実際、8月26日夕方、カブール市内では、日本大使館の現地人職員と家族など数百人が集合し、日本政府が用意した十数台のバスで空港へ向かおうとしておられましたが、その矢先、空港付近でテロが起きたので、退避は中止されました。
また、JICAの現地人職員ら約300人も、当時、約10台のバスで空港に向かう途中でしたが、テロの一報を受けて引き返したと聞きます。
仮に26日にテロが起きず、空港近くまで行けたとしても、タリバンの検問で阻まれた可能性はあり、日本政府内では「あと1日早ければ、成功していた」との声も聞きます。
現地の状況推移を予期した、早め早めの意思決定が重要です。
菅内閣は、今回、タリバンによるカブール占拠という事態に至ってから邦人輸送を検討しました。
中国は、4月にバイデン大統領がアフガニスタンからの完全撤退を表明したことを受け、6月中旬に安全保障会議を開き、「撤僑」(アフガニスタン在住中国人の撤収)、「促和」(アフガニスタン政府とタリバンの和平交渉を促す)、「軍演」(アフガニスタンからテロリストの侵入を防ぐ為の軍事演習の実施)という具体策を決めたと聞いています。
この方針に基づき、中国外交部は、6月21日、25日の2回にわたり、アフガニスタン在住中国人に対し緊急注意報を出し、早めに帰国するよう呼びかけました。
更に、7月7日には、中国政府は自国民保護のチャーター便を派遣、帰国を希望するアフガニスタン在住中国人数百人を退避させ、中国外交部は、「7月末までに、帰国を希望するアフガニスタン在住中国人の撤収はほぼ完了した」旨を発表しています。
危機になってから対処するよりも、米軍撤収予定日前後に発生する可能性のある危機を予測して先手を打つことの方が、遥かにコストとリスクは少なくて済みます。
日本も、米国はじめ諸外国との協力体制や情報収集・分析能力及び意思決定の仕組みを強化し、普段からの訓練・演習によって政府全体の危機管理能力を高めておくことが重要です。