創薬力の強化に向けて②:対策
更新日:
引き続き、創薬の話です。
昨日に書きました通り、日本の製薬企業の中にはグローバル市場で高い評価を受けている企業もあります。
他方、多くの日本企業の「創薬パフォーマンスの低さ」の要因については冷静に分析しながら、今後は「創薬力の強化」に向けた取組を本気で始めなければならないと考えます。
第1に、「メガファーマ」は対象とする疾患領域が幅広く、「スペシャリティファーマ」は対象領域を絞っており、日本の製薬企業はどっちつかずになっています。
第2に、創薬プロジェクトの可否を早期に見極め、適切にリソースを最適化する柔軟性が不足していることです。
グローバルファーマは、研究段階で考えた薬の能力を動物ではなく人で臨床治験して、絞り込みを早期に行うということですが、これは、日本では賛否の大きく分かれるところで、実に困難な課題です。
第3に、ベンチャーのエコシステムが弱いことです。
欧米と比べますと、資金面、機能面ともにインキュベーション(事業の創出・創業支援)の仕組みが不十分です。
米国のバイオクラスターであるサンディエゴでは、循環する資金と人材に加えて、弁護士、会計士など専門職を含めた研究開発段階のエコシステムが形成されているということです。
この点は、産学金官で連携して、改善策を講じられると思います。
第4に、臨床開発環境の未整備です。
日本では、総合病院が多いですから、1つ1つの領域の患者数が少なく、患者組み入れコストが高いのです。患者データも医療機関ごとに分散していますから、対象患者を見付けにくいということです。
例えば、癌特化病院は日本全国で350から400もあり、薄く広がり、研究や教育ができる医師が散らばっています。
海外のCenter of Excellenceが特定領域に特化しているのとは対照的だと言われます。
第5に、トランスレーショナルリサーチ(基礎研究から臨床現場への橋渡し研究)が脆弱です。つまり、理論から臨床への繋ぎが弱いということです。
臨床研究の論文数が少なく、phDの人数も少なく、学位取得後の企業への就職比率は、米国に比べると圧倒的に低くなっています。
産学連携の人材交流も限定的だとされます。
その理由として、「『臨床研究法』によって、医師主導の治験がやりにくくなったからだ」という指摘があります。同法の制定は、ノバルティス社員の臨床データ改竄がきっかけでした。製薬企業から資金提供を受けた臨床研究への縛りが厳しくなり、共同研究が困難になったそうです。
これも、人命に関わることですから、データ改竄の再発が無いように留意しながら、改善策を検討したいと思います。
第6に、研究資金の差です。
NIH(米国の国立衛生研究所)とAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の研究資金力に大きな差があることに加え、基礎⇒応用⇒ 臨床と繫いでいく公的資金が少ないのです。
医療分野の研究助成金の規模は、米国が日本の22倍になっており、政府の研究開発予算における医療分野の割合も、米国が日本の6倍です。
医療分野の予算の流れを見ますと、米国では、NIHから直接、大学や研究所に渡りますが、日本では、文部科学省、厚生労働省、経済産業省からAMEDとインハウス研究機関に渡り、その後、臨床研究中核病院や大学や国立研究所などに渡っています。
ここは、研究資金の配分方法と規模も含めて検討した上で、国が「危機管理投資」及び「成長投資」として大胆に支援するべき点だと考えます。
第7に、薬価制度の抜本的改革で、製薬企業の稼ぐ力が減少したことです。
つまり、革新的な薬剤に対する見返りが少ないということです。ここは、患者負担も含めて政治の現場での議論が激しくなる点です。
以上の問題意識を持った上で、私は、米国の商務省が所管する『特許規則連邦規則法典』第37巻第404条6項についても、研究してみたいと考えています。
NIHの技術シーズを、同法に基づき、実用化の独占的ライセンスを中小企業に優先的に付与するものです。バイオベンチャーは技術シーズが無くても起業できる代わりに、迅速な開発と商業化を要求されます。
自民党社会保障制度調査会に設置された「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム」でも、今年5月に提言が取り纏められています。
前記した私の問題意識と概ね同様の方向性ですが、党提言の中では特に「緊急時に新薬・ワクチンを迅速に実用化できる薬事承認制度の確立」が、多くの国民の皆様の願いに沿っているのではないかと思います。