経済安全保障の強化に向けて③:先端技術・機微技術の国外流出阻止
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私が「経済安全保障」を強化する上で最も重要だと考えていることは、「先端技術・機微技術・戦略物資の流出を阻止する為の政策構築」です。
政治家として、今後の数年間で特に力を入れる決意をしていることは、下記の6項目の実現です。
①産業スパイ対策に資する法制度整備(スパイ防止法の制定)
②「企業買収・合併」に係る審査体制の強化
③「安全保障貿易管理規程」の整備と運用体制の強化
④先端技術・機微技術・戦略物資の研究開発や製造に関わる日本人研究者・技術者やOBの処遇改善と活躍の場の確保(引き抜き防止策)
⑤5Gや国際通信の主たるインフラである「海底ケーブル」からの情報窃取に対する防護強化
⑥産学官のサイバー防御体制の樹立と高度化
私が特に警戒しているのは、中国の動きです。中国は、「技術獲得」の為に様々な手法を駆使しています。
第1に、「投資と買収」です。
中国企業の日本における行動で、確認された事例を、幾つか挙げます。
●中国への警戒感が高まっているので、出資元を秘匿して日本の先端企業の買収を試みた。●中国共産党との関係が強い中国企業が、日本で、先端技術を有する企業、資金が必要なベンチャー企業、経営不安に陥った企業への投資を積極的に実施した。
●日本に設立した中国企業の子会社を、日本人技術者のリクルート拠点として活用した。
●中国企業が、日本企業に出資して、傘下に設立させた子会社を利用して日本の先端企業の買収を企画した。
●中国企業の在日代表が、日本人の元金融関係者と結託して、日本の地方銀行に中国の電子決済システムを導入させ、地方銀行を介して地方企業情報を獲得した。
第2に、「人材リクルート」です。
国家市場監督管理総局系の人材仲介組織の対日担当は、日本企業の幹部にパイプを持っており、既に多数の日本人技術者を獲得したとされています。
定年退職した技術者、マネージメント人材、輸出管理人材も重要なターゲットで、数倍の年俸を提示し、技術やノウハウを吸い上げています。
日本の大学などの研究者が「千人計画」(海外で博士号を取得したハイレベル人材の呼び戻し・著名な外国人専門家の招致)に参加していた例も、多数、確認されています。
第3に、「従業員などによる漏洩」です。
日本の大学に留学経験を有する研究者が、中国に帰国後、軍事研究に従事する事例が、散見されています。
日本の企業や大学に所属する外国人従業員や研究者による企業秘密や研究成果の無断持ち出しが、多数、確認されています。
企業のインターンシップに参加している留学生、業務委託先の外国人技術者、企業幹部周辺の外国人従業員、外国の同業他社に転職した日本人技術者による持ち出し事例が、確認されています。
手法としては、秘密文書のコピー、サンプルの持ち出し、スマホへのダウンロード、私物USBメモリへのコピー、スクリーンショットでの撮影、私用メルアドへの送信などの事例が、確認されています。
第4に、「サイバー攻撃」です。
サイバー攻撃については、これまで何度も書きましたので、簡潔にします。
日本も攻撃を受けたのですが、米国のFBIが指名手配している中国人ハッカー(米国・日本・韓国・イギリス・オーストラリア・ドイツ・スペインなどを10年以上も攻撃)の標的は、ハイテク製造、医療機器、ゲームソフト、太陽エネルギー、製薬、コロナウイルスワクチンでした。
中国が「技術獲得」に力を入れる背景には、2つの国家戦略があります。
中国が2015年に発表した『中国製造2025』は、2049年までに製造強国トップクラス入りを目指す国家戦略です。
『中国製造2025』の「10大重点領域」は、「次世代情報技術」「高性能NC制御工作機械」「航空・宇宙設備」「海洋建設設備・ハイテク船舶」「先進的軌道交通設備」「省エネ・新エネルギー自動車」「電力設備」「農業用機械設備」「新素材」「バイオ医療・高性能医療機器」です。
今年3月の全人代でも、李克強総理が「総体的国家安全保障観を堅持し、国の経済安全保障を強化する」と発言し、研究開発費を増加する方針が示されました。
更に中国が2016年に発表した『軍民融合』政策は、2050年までに世界で最も先進的な軍隊にする為の国家戦略です。
民間企業の軍需参入を推奨し、民間への指導を強化するもので、軍と大学・研究機関・企業が協力協定を締結して、共同開発を推進するなどの取組です。
『軍民融合』政策で「民間企業の軍需参入」が推奨されている領域は、「衛星製造と観測制御」「衛星ペイロード」「衛星の応用」「電子対抗」「通信・情報の安全対策」「電磁両立性と防護」「探査・目標識別」「データ・画像処理」「ネットワークセキュリティ」「ビッグデータ・クラウドコンピューティング」「クラウドセキュリティ」「スマート無人装備」「アナログ・シミュレーション」の13領域です。
5月4日に書いた中国の『国家情報法』に規定する「組織・市民による工作活動への協力義務」と併せて考えますと、現内閣が対応を急ぐべき課題です。