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サイバー犯罪捜査の進展と今後の課題②

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 「サイバー犯罪の抑止に資する捜査の在り方等の検討」については、2019年5月に、私が本部長を務めていた自民党サイバーセキュリティ対策本部から、当時の安倍晋三総理と菅義偉官房長官(内閣のサイバーセキュリティ戦略本部長)に手交した『第2次提言』にも、記しました。

 

 自民党の『第2次提言』では、「人権の侵害にならないこと」「善良な利用者の権利を不当に侵害することが無いこと」に十分に留意しながら、サイバー犯罪の抑止に資するよう、「捜査の実効性」を担保する為に検討を行うべき諸課題を提示しました。

 

 第1に、「被害の予防に関する検討」です。

 

 サイバー空間では、「被害の予防」が重要になってきています。

 犯罪が発生していない、又は犯罪が行われようとしており、被疑者が不明な場合が多々存在することから、被害の発生前であっても、「被害の予防」や「強制捜査」ができるようにすることが望ましいと考えました。

 

 犯罪の温床になっているTor(The Onion Router)等でしかアクセスできないダークウェブでは、「違法に取得されたと考えられる個人情報」や「企業の営業秘密情報」が、仮想通貨などで取引されています。

 

 被害状況の実態把握の為、これらの売主に対して仮想通貨を提供して情報を得る場合も含め、捜査機関において、ダークウェブの情報の収集・分析を推進することが重要です。

 

 ちなみに『不正アクセス禁止法』では、第7条の「フィッシング罪」など、実害発生前であっても、犯罪と規定している場合には、捜査機関による捜査が可能です。

 

 このような場合以外でも、例えば、「被疑者不詳、被害者もいない状態で、国内に在るサーバがウイルスのばら撒きに使用され得る脆弱な状態のまま放置されている」等であって、「何らかの犯罪に悪用されようとしていることを認知した場合」は、強制的に当該サーバやIPアドレスに割り当てられたドメイン名を差し押さえたり、停止したりする権限を持たせることによって、犯罪抑止に繋がるのではないかと考えました。

 

 他方、サーバやドメイン名を停止することなどにより、第三者である他の利用者に不利益が生じることも考慮する必要があります。一定の場合には、サーバやドメイン名を停止できるようにすることについて、善良な利用者の権利を不当に侵害することが無いよう慎重を期した上で、検討を開始するべきです。

 

 中国では、グレートFWがあり、Tor通信が遮断されています。

 掲示板側がTor経由の通信を全て遮断するなどの自衛措置は可能です。東京オリンピック・パラリンピック競技大会の期間中はTor経由の通信を遮断することも、考え得るのではないでしょうか。

 

 第2に、「新たな捜査手法に関する検討」です。

 

 例えば、新たな捜査手法として、捜査機関が、令状を取得した上で、被疑者のパソコンやスマートフォン端末にウイルスを仕込むことを可能とする権限を認めることについて、検討を開始するべきだと記しました。

 

 ウイルスは、警察が作成するポリスウェアやリーガルウェアと呼ばれるものを使用します。米国では、リバースウェアと呼ばれており、ウイルスを被疑者の端末に仕込むことも含めて令状があれば可能だそうです。

 このウイルスに、仕込んだ端末から接続されるインターネットアドレス(URL)やキーボードの入力値(キーログ)を、秘密裏に捜査機関のサーバに送信する機能を持たせることで、被疑者の行動を逐一把握できるようになります。

 

 また、捜査機関が、脆弱な状態にして設置したハニーポットを運用して、ウイルス付きのファイルを保存しておき、侵入してきた攻撃者に取得させ感染させることで、攻撃者の情報を収集することができるようにすることについても、検討を開始するべきだと記しました。

 

 第3に、「越境データに対する捜査手法の確立」です。

 

 海外に所在するサーバに対して、強制処分としてデータを収集する捜査手法を認める必要があります。

 

 現状では、海外にサーバがあると判明した場合、「リモートアクセスによる複写の処分(『刑事訴訟法』第218条2項、第99条2項)」や「記録命令付差押(『刑事訴訟法』第218条1項、第99条の2)」の令状を裁判官が発付しない場合もありますので、円滑に執行できるよう、法制度や実務を整備するべきだと考えます。

 

 以上の提言は、賛否が大きく分かれることばかりだと思いますが、サイバー犯罪によって生命や財産を失うリスクの顕在化とサイバー攻撃の量的増加を考えると、捜査機関の最前線で活躍しておられる捜査員の皆様の御意見も伺いながら、より迅速に実効的な捜査ができる環境整備を行うことが政府の責務だと考えます。

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