携帯電話料金の引下げに向けた取組と課題
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菅義偉総理が特に力を入れておられるのが、「携帯電話料金の引下げ」です。
今やスマートフォンは、暮らしに欠かせない生活インフラとなりましたから、国民の皆様の期待が特に大きい公約だと思います。
この機に、前総務大臣として、モバイル市場の公正な競争環境を確保する為に、これまでに総務省が実施してきた取組と結果、新施策を検討する場合に留意していただきたい点を、整理して書いておきます。
第1に、昨年10月に『改正電気通信事業法』を施行し、「端末代金」と「通信料金」の完全分離や、「過度な違約金」の引下げなど、ルールの見直しを行いました。
この法改正は、1回目の総務大臣在任中(平成26年9月~平成29年8月)から何回も長時間の議論を続け、法改正案の方向性を固め、ようやく実現できたものです。
以前は、「端末代金」を安価に設定して、その分が「通信料金」に上乗せされていましたが、完全分離によって、「端末代金」と「通信料金」の両方で、値下げに向けた競争が起きる環境を作りました。
また、スマホを持っていても、電話とメールくらいしか利用しないので1ギガで十分というライトユーザーについても、最初から3ギガ以上の料金設定が行われるなどの課題がありましたが、現在では、各事業者のご協力を得て、ライトユーザーからヘビーユーザーまで、多様な料金プランを選択できるようになりました。
第2に、大手MNO3社が競合するMVNOに対して設定する「データ接続料」や「音声卸料金」を引き下げる方向で見直し、事業者間の競争促進を図ってきました。
皆様ご承知の通り、MNOは、「移動通信事業者」の略称で、移動通信サービスに係る無線局を自ら開設・運用して、移動通信サービスを提供する電気通信事業者です。
MVNOは、「仮想移動通信事業者」の略称で、移動通信サービスに係るインフラを他社から借り受けて、移動通信サービスを提供する電気通信事業者です。
「データ接続料」については、これまで引下げが行われてこなかったことを踏まえ、具体的な算定方法の整備など、適正化に向けた累次の取組を実施しました。
その結果、2020年度適用の接続料からは、ネットワーク維持管理費の過去実績に基づき算定する「実績原価方式」に代えて、将来予測に基づき算定する「将来原価方式」を導入し、MVNOの会計における予見性を確保することができました。
また、今年の6月30日には、ドコモが日本通信に提供する「音声卸役務の料金」について、「適正原価・適正利潤により算定した額を超えない額とするべき」旨の『総務大臣裁定』を実施し、日本通信は安価なサービスを提供できるようになりました。
更に、総務省の有識者会議(接続料の算定等に関する研究会)では、モバイル市場全体を対象に、「音声卸役務の料金」が適正原価・適正利潤を基本として設定されるよう、検討を実施中です。
昨年施行した『改正電気通信事業法』により、一部料金プランの料金水準の引き下げといった動きは見えてきました。
主要携帯電話事業者の大容量プラン(期間拘束無し)の料金水準を、昨年と今年で比較してみます。
NTTドコモは、2019年4月には10780円でしたが、2020年7月には7150円になっており、引下率は▲33.7%です。
KDDIは、2019年4月には10480円でしたが、2020年7月には7650円になっており、引下率は▲27.0%です。
ソフトバンクは、2019年4月には10180円でしたが、2020年7月には7480円になっており、引下率は▲26.5%です。
今春から参入した楽天は、2980円となっています。
更に、先月16日までの総務大臣在任中に方向性を打ち出せたこととしては、「番号ポータビリティ」に係る改善があります。
9月7日には、総務省で4月21日から開催していた有識者会議(電気通信市場検証会議「競争ルールの検証に関するWG」)で、携帯電話の乗り換えを促す「番号ポータビリティ」(MNP:利用者が、契約している携帯電話事業者を、電話番号を変えることなく変更できる仕組み)について、下記の内容で『報告書案』を取り纏めていただきました。
①現在は、変更前の携帯電話事業者に3000円の手数料を支払っていますが、これを「原則無料化」すること(オンライン以外の受付の場合は、上限1000円)
②同意なく自社プランに誘導するなど「過度な引き止め行為の禁止」
③オンライン受付の24時間化などの「利用環境の改善」
9月9日から10月8日までの1カ月のパブリックコメントが明日には終わりますので、その上で、今月中には正式に『報告書』の取り纏めがなされ、これを受けて、総務省が『携帯電話・PHSの番号ポータビリティの実施に関するガイドライン』などを整備し、具体的な環境整備に取り組むことになります。
この他にも、有識者会議では、携帯電話業界特有の「頭金」の表示について、「利用者の混乱を招いている」という指摘を受けて、「事業者・販売代理店に対して、広告表示の見直しを求める」方向で、『報告書案』を取りまとめていただきました。
携帯電話業界の「頭金」については、通常の用法と異なり、販売代理店が端末代金に上乗せする金額を示しています。
この「頭金」の表示の見直しは、総務省で『ガイドライン』の改正を行うような性質のものではありませんので、事業者・販売代理店が自主的な取組として広告フォーマットの見直しを行って下さると思います。
以上が、私自身が関わった携帯電話料金の引下げに向けた環境整備で、これから効果が発現するものもありますが、菅総理は、「諸外国と比較すると、大容量プランを中心に高い水準となっていること」を指摘され、後任の武田総務大臣も、大幅な値下げに向けた強い決意を示されました。
引き続き、「公正な競争環境の整備」を通じて、「低廉で」「分かりやすく」「納得感のある」料金・サービスが実現されることを、期待致します。
他方で、前記したように、大手MNO3社は、「無線局を自ら開設・運用して」移動通信サービスを提供する電気通信事業者です。
大手事業者は、地震や台風や豪雨などの災害の度に、破損した通信インフラを復旧し、役場や避難所に移動電源車や多数の社員を派遣し、モバイルや充電器の貸し出しなど、多大な貢献をして下さっています。
新型コロナウイルス感染症に関しても、1月に入港したダイヤモンドプリンセス号周辺の通信基地環境の整備、感染症の影響で生活に困窮しておられる方への電話料金の支払い猶予、在宅学習の為の若者への大容量通信料金の引下げなど、社会貢献をして下さいました。
現在は、過疎地まで含めた5Gの全国展開やサイバーセキュリティ対策などに、莫大な投資をしていただいています。
多額の電波利用料(電波利用に関する共益事務の費用に充てる為、その受益の程度に応じ、各免許人が負担する)も、負担していただいています。
菅総理や武田総務大臣が、「電力業界の発送電分離」に類似するような大規模な変革までを考えておられるのかどうかは不明ですが、私たちユーザーが「安心して、継続的に、高品質なサービスを受けることができる」ようにする為にも、インフラ投資や維持管理に要する費用については配慮した上で、新施策を構築して欲しいと希望します。