コラム

  1. TOP
  2. コラム
  3. 8期目の永田町から 平成29年11月~
  4. 政見放送と放送事業者の苦悩

政見放送と放送事業者の苦悩

更新日:

 既に東京都知事選挙が終わって1カ月半以上が経過していますので、選挙期間中にお寄せ頂いていたご質問に対して、私の立場であっても、考え方を示しても良い時期かなと思いましたので、書きます。

 

 私の立場…というのは、『放送法』と『公職選挙法』の両方を所管する総務省の大臣だということです。

 

 今年の東京都知事選挙では、私も、夜間の時間帯に、殆どの候補者の政見放送を拝見することができました。

 

 その中で、急に服を脱ぎ始めたり、放送事業者においては「放送禁止用語」と呼ばれるような表現(法律では、「放送禁止用語」は定められていません)を用いたりしていた候補者が居られたので、かなり驚きました。

 

 6月末頃に、複数の方々から私に寄せられていたご質問は、次のような趣旨のものでした。

 

 「東京都知事選挙の政見放送で、品位を欠く表現を使用した候補者について、一部の放送事業者はそのまま放送し、一部の放送事業者は部分的に音声を削除して放送を行っているが、どちらかの事業者に法律上の問題は無いのか?」

 

 その候補者の政見放送について、NHKはそのまま放送し、東京MXは一部の音声を削除して放送していました。

 

 放送事業者の対応が分かれたことを見ても、かなり悩まれた上で、それぞれに難しい判断をされたことが想像できます。

 

 まず、『放送法』との関係は、どうなるのでしょうか。

 

 『放送法』第3条の規定により、放送事業者には、「放送番組の編集の自由」が保障されていますが、その編集に当たっては、同法第4条第1項において、「公安及び善良な風俗を害しないこと」など4点が定められています。

 

 次に、『公職選挙法』との関係です。

 

 『公職選挙法』第150条では、政見放送については、放送事業者は「政見を録音し又は録画し、これをそのまま放送しなければならない」とされており、『放送法』第4条第1項の規律にかかわらず、この規定に基づいて放送が行われています。

 

 しかしながら、『公職選挙法』は、第150条の2に、公職の候補者や候補者届出政党などに対して、「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等」と例示した上で、「いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」と規定しています。

 

 この規定に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえないと判示した最高裁判決(平成2年4月17日)もあります。

 政見放送において、身体障害者に対する差別用語を使用した発言が、そのまま放送されなかったことの是非を巡る裁判でした。

 

 前回の平成28年の東京都知事選挙の際にも、政見放送の音声を削除された候補者がNHKを相手に民事訴訟を提起した事例がありましたが、NHKが勝訴しました(平成29年8月31日高裁判決)。

 

 東京MXは、政見放送の音声を部分的に削除して放送を行いましたが、これは、こうした判例の考え方に基づき、自らの判断により対応されたものではないかと考えます。

 

 選挙期間中にお寄せ頂いたご質問に対し、私の考え方をお示しすることを控えましたのは、その後も、投票日前まで、引き続き政見が放送される可能性がある時期だったからです。

 

 行政権が主体となって、発表前に政見放送の内容を審査し、不適当と認めるものの発表を禁止することは、憲法上禁止されている「検閲」に該当するおそれがあります。

 よって、東京MXの判断については、東京都知事選挙の管理執行機関である東京都選挙管理委員会も、『公職選挙法』と『放送法』を所管する総務省も、関与はしていませんでした。

 

 公職の候補者になろうとする方々には、政見放送収録時に、『公職選挙法』第150条の2に規定されている内容にご留意いただくことを期待しています。

前のページへ戻る

  • 自民党
  • 自民党奈良県連
  • リンク集