「総務相、電波停止に言及」報道に驚く
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一昨日(2月9日)の新聞には「総務相、電波停止に言及」、昨日(2月10日)の新聞には「総務相『電波停止』再び言及」といった見出しが躍り、愕然としました。
私が、自分からわざわざ「放送局の電波を止めます」などと繰り返し発言したわけではなく、衆議院予算委員会で民主党議員の方から2日続けて「電波法」第76条の運用に関する質問を頂いたものですから、過去の総務大臣等の答弁を踏まえて、従来の総務省の見解を答弁しただけでした。
きっかけは、2月8日の衆議院予算委員会で民主党の奥野総一郎議員から頂いたご質問でした。
この日は、テレビ中継入りの予算委員会ではありませんでしたので、私の答弁直前の奥野議員のご質問部分が削除された映像や新聞記事だけをご覧になった方が多いのかもしれません。
「急に電波を止められると、放送局は倒産します」、「好きな番組が観られなくなるので、電波を止めないで下さい」といったメールも頂きましたので…。
私の答弁直前の奥野議員のご質問部分は、
「ここで明確に否定していただきたいんですけれども、この放送法の174条の業務停止や、電波法76条についてはですね、こうした(放送法)4条の違反については使えないということで、今もう一度明確にご発言いただきたいんです」。
私の答弁は、
「それはあくまでも法律であり、(放送法)第4条もですね、これも民主党政権時代から、単なる『倫理規定』ではなく、『法規範性を持つもの』という位置づけで、しかも『電波法』も引きながら答弁をして下さっております。
どんなに放送事業者が極端なことをしても、仮にですね、それに対して改善をしていただきたいという要請、あくまでも行政指導というのは要請でありますけれども、そういったことをしたとしてもですね、全く改善されないと、公共の電波を使って全く改善されない、繰り返されるという場合に、全くそれに対して何の対応もしないということを、ここでお約束するわけには参りません。
ほぼ、そこまで極端な、電波停止にまで至るような対応を放送局がするとも考えておりませんけれども。
法律というのは、やはり法秩序というものをしっかりと守ると、違反した場合には罰則規定を用意されていることによって実効性を担保すると考えておりますので、全く将来に渡ってそれがあり得ないと言うことはできません」。
奥野議員が言及された「放送法」第4条と「電波法」第76条の規定は、次の通りです。
【放送法第4条】
(国内放送等の放送番組の編集等)
放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
1.公安及び善良な風俗を害しないこと。
2.政治的に公平であること。
3.報道は事実をまげないですること。
4.意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
【電波法第76条】
(無線局の免許の取消し等)
総務大臣は、免許人等がこの法律、放送法若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは、3箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる。
「電波法」第76条は、「放送法」違反に対して、かなり厳しい処分を規定していますが、「総務大臣による無線局運用停止命令」は、極めて慎重な配慮のもとで運用すべきですから、運用に関する従来からの総務省見解も在ります。
①法律の規定に違反した放送が行われたことが明らかであることに加え、
②その放送が公益を害し、放送法の目的にも反し、これを将来に向けて阻止することが必要であり、かつ、
③同一の事業者が同様の事態を繰り返し、かつ、事態発生の原因から再発防止のための措置が十分でなく、放送事業者の自主規制に期待するのでは、法律を遵守した放送が確保されないと認められる、
といった「極めて限定的な状況」のみに行うこととするものです。
この運用に関する見解についても、従来から総務省が明らかにしているものですから、総務省ご出身(情報通信・放送を所管する旧郵政省出身)の奥野議員は熟知されているはずですし、マスコミの方々は当然に御承知のことなのですが、改めて、閣議後記者会見や9日の予算委員会に於ける民主党議員に対する答弁の中でも紹介をしました。
しかし、結果は「総務相、『電波停止』再び言及」という報道で、かなりの脱力感…。
「放送法」第4条が定める「番組準則」と「電波法」第76条が定める「無線局運用停止命令」の関係については、過去の総務大臣や総務副大臣も、同じ方針で答弁をしてこられました。
民主党政権でも、平成22年11月26日の参議院総務委員会では、平岡総務副大臣が、「この番組準則については、我々としては法規範性を有するものであるというふうに従来から考えているところであります。したがいまして、放送事業者が番組準則に違反した場合には、総務大臣は、業務停止命令、今回の新放送法の第174条、又は電波法第76条に基づく運用停止命令を行うことができるというふうに考えているところでございますけど、(以下、上記の運用基準を紹介)」と答弁しておられます。
自民党政権でも、平成19年11月29日の衆議院総務委員会では、増田総務大臣が、「電波法第76条の第1項に基づいて、放送局の運用停止または制限が可能でございますので、これはもうきちんと運用できる、こういうことですね。自主的な、放送事業者の自律的対応を期待するところでございますが、そうした自律的な対応ができないような場合には、やはりきちんと電波法第76条1項の適用が可能だ、これはそういうことだと思います」と答弁しておられます。
2月8日の予算委員会で、奥野議員は、「4条というのは元々昔から古くはですよ、まさに法規範性がないと、努力義務とずっと言われてきたんですね。なので行政指導も行われてこなかったんですが、時代の流れと共に変わってきたんですよ」と指摘をされました。
民主党政権時代にも、「放送法」第4条については「法規範性を有するもの」という答弁をしておられましたので、仮に奥野議員が第4条の「法規範性」を問題視する立場ならば、民主党内で統一した見解をまとめていただき、議員提出法案として「放送法」と「電波法」の改正案を提出されるという手段もあるかと思います。
例えば、「放送法」第4条の条文を「放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。」(現行法)から、「放送事業者は、…放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めることに配慮するように努める。」に改め、「電波法」第76条が規定する「総務大臣による無線局運用停止命令」の部分を廃止する方法です。
8日の奥野議員のご質問に対する私の答弁の中で、電波の停止について、「私がいる時にするとは思いませんけれども、ただ将来に渡って、よほど極端な例、放送法の法規範性があるということについて全く遵守しない、何度行政の方から要請をしても全く遵守しないというような場合に、その可能性が全くないとは言えません。やはり放送法というものをしっかりと機能させるために、電波法においてもですね、そのようなことも担保されているということでございます。実際にそれが使われるか使われないかは、事実に照らしてですね、その時の大臣が判断することになるかと思います」と述べたことについても、ある新聞では徹底的に叩かれていました。
日本の法律は、憲法に反する内容のものは最高裁判所によって「違憲立法」と判断され、無効になります。
「電波法」第76条が規定する「総務大臣による無線局運用停止命令」についても、憲法が保障する「表現の自由」に抵触する違憲立法とは判断されていません。
既に法律に規定されている事柄について、「将来の総務大臣も含めて、未来永劫、使いません」と断言する権利など、私には無いと思っています。
「放送法」も「電波法」も、キー局と呼ばれる大手テレビ局だけではなく、地方のケーブルテレビ局や小さなエリア対象のラジオ局にも関係します。
日本国内では、多数の放送事業者が、広範な地域で有意義で大切な情報を届けて下さっています。
それでも、万が一、不幸にも「極端なケース」が生じてしまった場合のリスクに対する法的な備えは、必要だと考えています。
仮に免許人等が、テロリスト集団が発信する思想に賛同してしまって、テロへの参加を呼び掛ける番組を流し続けた場合には、「放送法」第4条の「公安及び善良な風俗を害しないこと」に抵触する可能性があるでしょう。
仮に免許人等が、地方選挙の候補者になろうと考えて、選挙に近接した期間や選挙期間中に自分の宣伝番組のみを流し続けた場合には、「放送法」第4条の「政治的に公平であること」に抵触する可能性があるでしょう。
多くの視聴者から苦情が寄せられ、総務省が数次に渡って改善を要請しても、相手が応じない場合には、視聴者の利益や公益を守る為に、これらの行為を阻止できる唯一の手段が「電波法」第76条の規定なのだろうと思います(極めて慎重な運用方針は前記した通りですが)。
もちろん、多くの放送事業者は、自律的に「放送法」を守る努力を続けておられますし、総務省から行政指導等があった場合には速やかに対応して下さっています。
もう1つの論点になった「1番組のみ」のケースについても、総務省から行政指導をした事例はあります。
平成16年3月20日に自民党だけの政党広報番組を放送した地方局、総選挙投票日直前の平成15年11月4日に民主党だけのPRとなる番組を放送したキー局、いずれも「政治的に公平であること」との関係において、行政指導(厳重注意)を受けています。
このような行政の対応も、昨年5月12日の参議院総務委員会で、これまでの解釈の補充的説明として例示した通り、「極端な場合」に限定されています。
私が、自分からわざわざ「放送局の電波を止めます」などと繰り返し発言したわけではなく、衆議院予算委員会で民主党議員の方から2日続けて「電波法」第76条の運用に関する質問を頂いたものですから、過去の総務大臣等の答弁を踏まえて、従来の総務省の見解を答弁しただけでした。
きっかけは、2月8日の衆議院予算委員会で民主党の奥野総一郎議員から頂いたご質問でした。
この日は、テレビ中継入りの予算委員会ではありませんでしたので、私の答弁直前の奥野議員のご質問部分が削除された映像や新聞記事だけをご覧になった方が多いのかもしれません。
「急に電波を止められると、放送局は倒産します」、「好きな番組が観られなくなるので、電波を止めないで下さい」といったメールも頂きましたので…。
私の答弁直前の奥野議員のご質問部分は、
「ここで明確に否定していただきたいんですけれども、この放送法の174条の業務停止や、電波法76条についてはですね、こうした(放送法)4条の違反については使えないということで、今もう一度明確にご発言いただきたいんです」。
私の答弁は、
「それはあくまでも法律であり、(放送法)第4条もですね、これも民主党政権時代から、単なる『倫理規定』ではなく、『法規範性を持つもの』という位置づけで、しかも『電波法』も引きながら答弁をして下さっております。
どんなに放送事業者が極端なことをしても、仮にですね、それに対して改善をしていただきたいという要請、あくまでも行政指導というのは要請でありますけれども、そういったことをしたとしてもですね、全く改善されないと、公共の電波を使って全く改善されない、繰り返されるという場合に、全くそれに対して何の対応もしないということを、ここでお約束するわけには参りません。
ほぼ、そこまで極端な、電波停止にまで至るような対応を放送局がするとも考えておりませんけれども。
法律というのは、やはり法秩序というものをしっかりと守ると、違反した場合には罰則規定を用意されていることによって実効性を担保すると考えておりますので、全く将来に渡ってそれがあり得ないと言うことはできません」。
奥野議員が言及された「放送法」第4条と「電波法」第76条の規定は、次の通りです。
【放送法第4条】
(国内放送等の放送番組の編集等)
放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
1.公安及び善良な風俗を害しないこと。
2.政治的に公平であること。
3.報道は事実をまげないですること。
4.意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
【電波法第76条】
(無線局の免許の取消し等)
総務大臣は、免許人等がこの法律、放送法若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは、3箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる。
「電波法」第76条は、「放送法」違反に対して、かなり厳しい処分を規定していますが、「総務大臣による無線局運用停止命令」は、極めて慎重な配慮のもとで運用すべきですから、運用に関する従来からの総務省見解も在ります。
①法律の規定に違反した放送が行われたことが明らかであることに加え、
②その放送が公益を害し、放送法の目的にも反し、これを将来に向けて阻止することが必要であり、かつ、
③同一の事業者が同様の事態を繰り返し、かつ、事態発生の原因から再発防止のための措置が十分でなく、放送事業者の自主規制に期待するのでは、法律を遵守した放送が確保されないと認められる、
といった「極めて限定的な状況」のみに行うこととするものです。
この運用に関する見解についても、従来から総務省が明らかにしているものですから、総務省ご出身(情報通信・放送を所管する旧郵政省出身)の奥野議員は熟知されているはずですし、マスコミの方々は当然に御承知のことなのですが、改めて、閣議後記者会見や9日の予算委員会に於ける民主党議員に対する答弁の中でも紹介をしました。
しかし、結果は「総務相、『電波停止』再び言及」という報道で、かなりの脱力感…。
「放送法」第4条が定める「番組準則」と「電波法」第76条が定める「無線局運用停止命令」の関係については、過去の総務大臣や総務副大臣も、同じ方針で答弁をしてこられました。
民主党政権でも、平成22年11月26日の参議院総務委員会では、平岡総務副大臣が、「この番組準則については、我々としては法規範性を有するものであるというふうに従来から考えているところであります。したがいまして、放送事業者が番組準則に違反した場合には、総務大臣は、業務停止命令、今回の新放送法の第174条、又は電波法第76条に基づく運用停止命令を行うことができるというふうに考えているところでございますけど、(以下、上記の運用基準を紹介)」と答弁しておられます。
自民党政権でも、平成19年11月29日の衆議院総務委員会では、増田総務大臣が、「電波法第76条の第1項に基づいて、放送局の運用停止または制限が可能でございますので、これはもうきちんと運用できる、こういうことですね。自主的な、放送事業者の自律的対応を期待するところでございますが、そうした自律的な対応ができないような場合には、やはりきちんと電波法第76条1項の適用が可能だ、これはそういうことだと思います」と答弁しておられます。
2月8日の予算委員会で、奥野議員は、「4条というのは元々昔から古くはですよ、まさに法規範性がないと、努力義務とずっと言われてきたんですね。なので行政指導も行われてこなかったんですが、時代の流れと共に変わってきたんですよ」と指摘をされました。
民主党政権時代にも、「放送法」第4条については「法規範性を有するもの」という答弁をしておられましたので、仮に奥野議員が第4条の「法規範性」を問題視する立場ならば、民主党内で統一した見解をまとめていただき、議員提出法案として「放送法」と「電波法」の改正案を提出されるという手段もあるかと思います。
例えば、「放送法」第4条の条文を「放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。」(現行法)から、「放送事業者は、…放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めることに配慮するように努める。」に改め、「電波法」第76条が規定する「総務大臣による無線局運用停止命令」の部分を廃止する方法です。
8日の奥野議員のご質問に対する私の答弁の中で、電波の停止について、「私がいる時にするとは思いませんけれども、ただ将来に渡って、よほど極端な例、放送法の法規範性があるということについて全く遵守しない、何度行政の方から要請をしても全く遵守しないというような場合に、その可能性が全くないとは言えません。やはり放送法というものをしっかりと機能させるために、電波法においてもですね、そのようなことも担保されているということでございます。実際にそれが使われるか使われないかは、事実に照らしてですね、その時の大臣が判断することになるかと思います」と述べたことについても、ある新聞では徹底的に叩かれていました。
日本の法律は、憲法に反する内容のものは最高裁判所によって「違憲立法」と判断され、無効になります。
「電波法」第76条が規定する「総務大臣による無線局運用停止命令」についても、憲法が保障する「表現の自由」に抵触する違憲立法とは判断されていません。
既に法律に規定されている事柄について、「将来の総務大臣も含めて、未来永劫、使いません」と断言する権利など、私には無いと思っています。
「放送法」も「電波法」も、キー局と呼ばれる大手テレビ局だけではなく、地方のケーブルテレビ局や小さなエリア対象のラジオ局にも関係します。
日本国内では、多数の放送事業者が、広範な地域で有意義で大切な情報を届けて下さっています。
それでも、万が一、不幸にも「極端なケース」が生じてしまった場合のリスクに対する法的な備えは、必要だと考えています。
仮に免許人等が、テロリスト集団が発信する思想に賛同してしまって、テロへの参加を呼び掛ける番組を流し続けた場合には、「放送法」第4条の「公安及び善良な風俗を害しないこと」に抵触する可能性があるでしょう。
仮に免許人等が、地方選挙の候補者になろうと考えて、選挙に近接した期間や選挙期間中に自分の宣伝番組のみを流し続けた場合には、「放送法」第4条の「政治的に公平であること」に抵触する可能性があるでしょう。
多くの視聴者から苦情が寄せられ、総務省が数次に渡って改善を要請しても、相手が応じない場合には、視聴者の利益や公益を守る為に、これらの行為を阻止できる唯一の手段が「電波法」第76条の規定なのだろうと思います(極めて慎重な運用方針は前記した通りですが)。
もちろん、多くの放送事業者は、自律的に「放送法」を守る努力を続けておられますし、総務省から行政指導等があった場合には速やかに対応して下さっています。
もう1つの論点になった「1番組のみ」のケースについても、総務省から行政指導をした事例はあります。
平成16年3月20日に自民党だけの政党広報番組を放送した地方局、総選挙投票日直前の平成15年11月4日に民主党だけのPRとなる番組を放送したキー局、いずれも「政治的に公平であること」との関係において、行政指導(厳重注意)を受けています。
このような行政の対応も、昨年5月12日の参議院総務委員会で、これまでの解釈の補充的説明として例示した通り、「極端な場合」に限定されています。