地域の「稼ぐ力」を鍛える
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総務省は、5月29日(金)に「地域の産業・雇用創造チャート ~統計で見る稼ぐ力と雇用力~」を公表しました。
私も、同日の大臣記者会見の場で、地元の奈良県のチャートを使って、マスコミの皆様にチャートの見方を説明致しました。
http://www.stat.go.jp/info/kouhou/chiiki/index.htm
「地方版総合戦略」の策定においては、人口減少問題がクローズアップされていますが、私は、産業政策が中心テーマに据えられると思います。
「しごと」をつくらなければ、地域に人を集めることはできないからです。
しかし、これまでは、体系的で分かりやすい産業分析がありませんでした。
今回は、単に総務省からデータやチャートが公表されたということだけでなく、岡山大学の中村良平先生の御指導によって、地に足のついた経済理論を広く使っていただけることに、大きな意味があると思っています。
各地域にはその地域外から稼いでくる産業(基盤産業)があり、それがコアになって人口規模が決まるという理論があります(「経済基盤仮説」と言うそうです)。
地域外から稼いでくる産業とは、具体的には、地域の外に出荷することを目的とした農業や漁業、工業のようなものです。
奈良県で言えば、繊維工業(例えば広陵町の靴下)や木材・木製品製造業(吉野の林業)、ゴム製品製造業(三郷町の履物)などがこれに当たります。
実は、この基盤産業の従事者数が地域の人口の規模を決めるのだそうです。
つまり、地域外から稼いでくる産業が振わずに従事者数が減少すると、飲食店やクリーニング店などの地域住民を顧客とした産業も衰退し、結果として地域全体が寂れるのです。
今回のチャートは、地域外から稼いでくる産業を抽出するものであり、地域産業政策の出発点と言えます。
そこから先は、まさに各地域で様々な議論が交わされるべきところです。
稼ぐ力の高い産業をさらに伸ばすのも一つの政策でしょう。しかし、それが容易でないこともしばしばです。
地域経済を支えている産業自体に衰退の兆しがある場合には、その産業の付加価値を高めるのか、それとも稼ぐ力を持つ別の産業を育むのか、あるいは、域外に頼っている財・サービスを内需型に変えていくという議論もあるでしょう。
いずれにしても、地域産業構造の見直しを検討することになると思います。簡単なことではありません。
これまでにも産業構造の転換を図ろうとしながら、様々な関係者との議論の過程で調整がつかずに断念してきた自治体もあるかもしれません。
多くの場合、「事実やデータ」が共有されず、「思い込みや思い入れ」がぶつかっているように思います。
このチャートは、誰の目にも見える形で事実を明らかにし、地域に「ひと」を引きつけ、とどめる「しごと」が何であるかを可視化するものです。
単に人を増やす議論ではなく、どのような技能を持った人が確保されれば持続可能な地域になるのか、具体的な議論を始める良いきっかけになると思います。
日本の全市町村分のチャートが統計局HPに公開されていますので、皆様がお住まいの自治体のチャートを、是非ともご覧くださいね。