鳩山内閣の口蹄疫対策に怒り⑤:奈良公園のシカへの対応策は準備されていない
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5月21日の衆議院経済産業委員会で私が指摘した第4の点は、「移動する野生動物等への感染まで想定した備えの欠如」でした。
口蹄疫は、牛や豚だけではなく、羊やヤギ、自由に移動する猪、鹿などにも感染する疾病であることへの備えが必要です。
既に、今週はヤギへの感染が報じられました。
私の地元である奈良県では、現在、平城遷都1300年祭が開催されており、世界各地、全国各地から、多くのお客様が来県して下さっています。
不幸にして口蹄疫感染が全国規模になった場合、人の靴の裏や車両の消毒が徹底されていなかったら、奈良県にはウィルスが持ち込まれやすい状況下にあることも確かです。
奈良公園の鹿は、放し飼いであり、自由に農家や人家にも入っていく上、「天然記念物」に指定されているので、防止のための消毒措置なども困難です。
万が一、奈良公園の鹿が口蹄疫に感染した場合の被害は、計り知れないと思っています。
奈良公園の鹿は天然記念物であることから、文化財保護法によって守られています。
文化財保護法第125条には、「史跡名勝天然記念物に関し、その保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない」と規定されています。
しかし、文化財保護法第125条には、「ただし、現状変更については維持の措置または非常災害のために必要な応急措置を執る場合、保存に影響を及ぼす行為については影響の軽微である場合は、この限りでない」という規定もあります。
つまり、鹿を殺す行為には「文化庁長官の許可」が必要ですが、非常災害の場合には、「保存について影響が軽微である場合には」例外も認めるというわけです。
しかし、全頭殺処分というような措置は「影響が軽微」とは言えないことから、文化財保護法との関係で困難な問題が生じるように思えました。
そこで、文化庁に、仮に奈良公園の鹿が口蹄疫に感染してしまった場合にどのような措置が執られるのかについて伺ってみたところ、「文化財保護法には、疾病に関する規定はなく、文化庁としては判断できない。鳥インフルエンザのケースの先例に準じ、文化財保護法第125条1項但し書きによる緊急事態に該当し、農水省が判断されるものとなる」ということでした。
念の為、経済産業委員会では、文化庁の見解を披露した上で、佐々木農林水産政務官に伺ってみました。
○高市委員「天然記念物である奈良公園の鹿が口蹄疫に感染した場合、農水省は、天然記念物として特段の保護や保全は行わずに、殺処分をするということになるんでしょうか」
○佐々木政務官「(前略)今の、文化財並びに文化庁の話がございましたが、家畜伝染病予防法の対象外でありますので、これはまたその時点で、そういうことが予測あるいは危惧されるというような時点で、文化庁と相談をさせていただくことになろうかというふうに思います」
既に、地元では「危惧」されていて、奈良の鹿愛護会の方々が、消毒液のストックを開始し、様子のおかしい鹿がいないかどうかと、公園内のパトロールを強化しておられます。
平城遷都1300年祭開催中で特に人の出入りが多い現状ですから、現場では相当な緊張感があるのです。
鹿は家畜ではないので、広大な地域に生息し、移動しています。
最悪の事態が発生した場合に、奈良市内にいる鹿が全て殺処分の対象になるのか、感染が確認された鹿が発見された地域を中心に一定面積内に居る鹿が処分されるのか、農林水産省がどのような防疫基準を考えておられるのかについて、重ねて質問しましたが、今のところは検討作業にも入っていないようでした。
奈良県だけではなく全国の殆ど全ての都道府県に、猪や鹿など自由に移動する野生動物が生息しています。
風でウィルスが運ばれる懸念についても指摘されていますから、「家畜」ではない猪や鹿に感染した場合の対策マニュアルについても、早期に準備されて然るべきだと思います。