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民法&戸籍法改悪阻止シリーズ⑧:「誰にも迷惑はかけない」の嘘

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 夫婦別氏推進論者は、「選択制夫婦別氏なのだから、夫婦同氏でいたい人は同氏でいればいいじゃないか。一部に別氏を選択する夫婦がいても、誰にも迷惑はかけない」とおっしゃいます。
 

 千葉法務大臣は、「選択的夫婦別姓 生き方の自由を認め合おう 民法改正案の国会上程に向けて」(『社会民主』平成8年7月)という論文の中で、「お一人おひとりが自分なりの思いを持っていたり、家族のイメージを持っているのはいいのですが、それはその人が持っていてくださればいいわけで、他人にまで『こうあらねばならぬ』と言われるのは迷惑しごくなことです」と書いておられます。
 
 千葉法務大臣には、別氏を選択しなかった第3者が直面する煩わしさというものにも、1度思いを致していただきたいものです。
 

 現在の日本では、婚姻届を出した夫婦は、全て「同氏」です。既に通称使用をしている夫婦も、戸籍においては紛れもなく「同氏」です。
 

 ところが、千葉法務大臣が目指す法改正が実現すれば、世の中には「戸籍同氏夫婦」「戸籍別氏夫婦」「戸籍同氏・通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現します。
 法改正が為されたとしても、「ファミリー・ネームは守りたい。戸籍は同氏で、職場だけの通称使用で十分」と考える人は確実に残るはずだからです。
 

 千葉法務大臣が準備している法律案概要には、「現在の同氏夫婦も、法律施行後1年以内であれば、配偶者との合意に基づき別氏に転換可能とする」と記されています。

 こうなると、第3者はかなり神経質にならざるを得ません。
 

 第1に、法施行の翌年に年賀状の宛名を書く段には、神経を張り詰めなければなりません。
 

 仮に、私が法施行後1年の経過措置を活用して、戸籍上も「高市早苗」という氏名に変更をしたとしましょう。
 現在であれば、私の戸籍名は「山本早苗」ですから、「山本拓様・早苗様」「山本拓様・山本家御一同様」という表書きの年賀状を、自分宛の書簡だと思って嬉しく拝読しています。
 しかし、私が戸籍上も山本という氏を持たない人間になった場合には、我が家に戴く年賀状は「山本拓様・高市早苗様」といった宛名でないと、不愉快に感じることでしょう。
 

 昨年まで同氏だった夫婦が法の経過措置を利用して別氏になっている可能性を考えながら、個別に確認作業を進める作業は、季節の挨拶状を出そうとする個人にとっても大変なことですが、会員や取引先に郵便物を送らなければならない団体や企業にとっては、顧客とのトラブルによって利益を失う可能性が生じることから、より深刻に捉えるべき困難な業務になります。
 国会議員の後援会名簿の修正についても、気が遠くなるような作業が想定されます。
 

 第2に、結婚披露宴に招かれた折の祝辞でも、注意が必要です。
 

 これまでは、新郎と新婦に対する祝意を述べた後は、「ご両家の皆様にも、お慶びを申し上げます」と続けるのが常套句でしたが、新郎新婦のご両親が経過措置を利用して別氏になっていた場合には、「ご4家の皆様」になるわけです。
 

 第3に、祖先祭祀にも影響が生じます。
 

 葬儀会場の近くには、「山本家ご葬儀会場 右折100m」などという表示が貼ってありますが、仮に山本拓の妻である私が戸籍上も「高市早苗」という氏名を選択した場合には、私の葬儀の道案内は「高市早苗ご葬儀会場 右折100m」と表示していただかなくては困ります。
 

 現在、私は、福井県鯖江市に所在する「山本家先祖代々の墓」に入れてもらえる予定ですが、戸籍上も山本という氏を捨てることとなれば、息子や娘に、別途「高市早苗の墓」を建立してもらう必要が生じます。
 

 以上、夫婦別氏推進論者には「下らないことばかりを並べ立てて」と言われるかもしれませんが、私は、これらの身近な事象も、既に夫婦親子同氏を前提に定着した日本の風習・文化であることから、一部の別氏選択者との交際に多くの国民が神経をすり減らし、「言葉狩り」に近いギスギスした空気が社会に醸成されることを恐れています。
 
 事実、千葉法務大臣は、対談本の中で「日常生活で(氏名の)読み方を間違えられたりすると、とっても不愉快というか、何か変な気持ちがするというのはありますでしょう。名前は人格というか、尊厳と密接につながっている」と語っておられます。
 別氏夫婦の呼称を同氏夫婦と間違えた場合のヒステリックなリアクションが容易に想像できてしまう御発言だと感じました。
 

 また、先日書きました通り、一部の人の自由を認めることによって、戸籍を土台として構築され運用されている日本の法制度体系の見直しが始まります。
 別氏を選択しなかった夫婦もその社会的コストを負担しなければならなくなることにも、十分に配慮していただきたいと思います。

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