民法&戸籍法改悪阻止シリーズ④:戸籍の個籍化で何が起きるのか?
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私は、日本の戸籍制度は世界に誇るべき優れた制度だと考えています。
「戸籍」は、血族・姻族・配偶関係を記載した公簿です。
戸籍の記載は届出によって為されるのが原則で、婚姻、協議離婚、任意認知など一定の身分関係の発生や変更という法律的効果を生じる「創設的届出」と、出生、死亡、裁判離婚など一定の事実や法律関係を事後に届け出る「報告的届出」があります。
まず、「戸籍制度の意義」を述べます。
戸籍は、親族、相続法上の諸関係を明らかにし、民法によって定められた法律関係の実際的適用に資するとともに、各種の行政目的、福祉行政の基礎資料として重要な意義を持ちます。
婚姻要件の調査、近親婚のチェック、相続権者の範囲の調査など、夫婦や親子の関係を把握することが極めて容易で、年金、保険、教育、医療等の行政の基礎としてもその持つ意味は大きいのです。
次に、「戸籍の機能的側面」を述べます。
戸籍は「純然たる身分登録制度」として機能しており、一定の親族共同体を一括一覧的に把握することが可能で、その事実に対する公証力が明確です。
戸籍には「記載システムとしての索引的連結の原則」があり、新戸籍と旧戸籍の双方に相手方戸籍を特定表示することから、相手方戸籍を相互に索出でき、両戸籍を連結する記載が可能です。
つまり、無限の親族関係の広がりを証明することができる優れたシステムなのです。
仮に、民主党政権が続くことによって戸籍に代わる「個籍(身分登録制度)」が実現したら、何が起こるのでしょうか。
澤田省三先生は、『夫婦別氏論と戸籍問題』(平成2年 ㈱ぎょうせい)で、「量的な膨大化を招いて事務処理が煩雑となり、内容的にも親族間のつながりを分解し、公証機能を著しく減退させるおそれがある」、「夫婦が別戸籍となることにより、夫婦のどちらかが筆頭者となるかという問題は解消するが、親族関係の一覧的把握は不可能となる。加えて個籍化はその意味で利用者のコスト高を生じる結果となることは避けられない」という問題を指摘されています。
日本の諸制度は、戸籍によって関係が証明される「家族」を単位として構築されているものが多いことから、多くの法制度につき、見直しが必要となると思います。
第1に、法制度上、「戸籍」という文言を条文上に持ち、戸籍制度に立脚する全ての法律について、見直しが必要となります。
「恩給法」第76条の2では、扶助料受給資格の喪失事由を規定しており、尊属が婚姻によって他の戸籍に移動した場合には権利を喪失します。
「戦傷病者戦没者遺族等援護法」第31条7では、遺族年金又は遺族給付金を受ける権利の消滅事由を規定しており、尊属が婚姻によって他の戸籍に移動した場合には権利を喪失します。
「戦没者遺族に対する特別弔慰金」、「戦没者父母等に対する特別給付金」、「戦傷病者妻に対する特別給付金」の手続では、親子・家族関係の証明のために、戸籍謄本を利用しています。
「公職選挙法」第146条の2では、季節の挨拶を禁止する対象者の範囲を規定しており、公職候補者と同一戸籍の者は、季節の挨拶状を選挙区内に配布してはなりません。
第2に、戸籍を基準に、制度の構築や援用をしている社会制度については、その実務に多大な困難が生じます。
「遺産相続」には、重大な影響が及びます。
遺産相続の分割協議などの手続きには、死亡者の戸籍謄本を全て遡ることによって家族関係を確定しています。隠れた法定相続人が存在する可能性があるからです。
「配偶者控除」でも、問題が生じます。
「20年以上婚姻関係を継続している夫婦間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除」という制度がありますが、これも戸籍によって20年以上に及ぶ実質的夫婦関係の把握と立証を行っています。
「民間の生命保険」や「JA共済」でも、受取人の資格証明として、戸籍謄(抄)本が、広く利用されています。
「児童扶養手当(母子家庭)」、「特別児童扶養手当(障害児童)」、「母子寡婦福祉資金貸付(母子・寡婦)」の手続には、親子・家族関係の証明、母子家庭であることや寡婦であることの把握のために、戸籍抄本・謄本を利用しています。
私たち国会議員の選挙においても、立候補届出時には戸籍抄本を添付しています。
私の候補者としての届出名は通称である「高市早苗」ですが、当選証書は戸籍名である「山本早苗」で発行されていますし、奈良県第二選挙区支部長名も「山本早苗」です。
第3に、訴訟手続きにも影響が及びます。
「成年後見の申立手続」では、申立人と被後見者との関係について、必要な権限を有することを証明するために戸籍が利用されています。
「家事調停事件手続」においても、遺産相続、離婚協議、認知など殆ど全ての事件について、事実関係を証明する書類として戸籍謄本が提出されます。
「少年事件被害者保護手続」についても、被害者が未成年である場合、重大な障害(病気や怪我を含む)を持つ場合、死亡している場合など、被害者と申出人との関係を証明するために、戸籍が利用されます。
「民事訴訟提起手続」でも、当事者が未成年者や法人の場合、訴訟行為をすることについて必要な権限を有することを証明するために戸籍が利用されます。
民主党は、戸籍を個籍化することによって必要になる多くの法改正や、親族の一括一覧的把握が不可能になることによる公証機能の低下、籍の量的増加による事務処理の煩雑化とコストの増大などについて、十分な検証を行っているのでしょうか?
給付型福祉への移行や子育ての社会化を宣言する民主党の政策には、「家族単位の制度を壊して個人単位の社会を創る」という目的が窺えるものが多く、私は強い懸念を抱いています。