中国の『反スパイ法』について特に懸念する点
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一昨日は、中国の『反スパイ法』の全条文をアップしましたので、「何故?」と思われた方も居られるかもしれません。
11月25日の「YouTube高市早苗チャンネル」では、『反スパイ法』の懸念点について語らせていただいたのですが、その中で、全条文をアップする旨をお話したからです。
皆様もご承知の通り、4年以上前の2019年7月に拘束された50代の日本人男性に対する第二審判決公判が、中国湖南省高級人民法院で、去る11月3日に行われました。上訴が棄却され、懲役12年の刑が確定したとの報に接し、気の毒で残念でなりませんでした。
昨今、「スパイ容疑」による日本人拘束事案が相次いでおり、本当に心配です。
今年(2023年)4月26日に、中国の全国人民代表大会で改訂『反スパイ法』が成立し、同日に公布されました。同法は、去る7月1日から施行されています。
「法の目的」は、第1条に書かれており、「反スパイ活動を強化し」「スパイ行為を防止・制止・処罰し」「国家安全を守り、人民の利益を保護する」ことです。
「主管機関」は、第6条に書かれており、「国家安全機関は、反スパイ活動の主管機関である」「公安、保密等の関連部門と、軍の関連部門は、職責に基づいて分業・協力…」。
「国家安全機関」とは、公安機関の性質を持つもので、拘留・取調べ・逮捕などができます。国務院の「国家安全部」、各省・自治区・直轄市が設置する「国家安全庁」などです。
つまり、国、地方の公安組織と軍が連携する形になっているようです。
「懲役刑」については、『反スパイ法』には書かれておらず、『刑法』の「国家安全に危害を及ぼす罪」という章で規定しています。
スパイ行為の内容により、「5年以下の有期懲役」「5年以上10年以下の有期懲役」「10年以上の有期懲役又は無期懲役」、国家及び人民に対する危害が特に重大な場合には「死刑」もあります。
今年の『反スパイ法』の改訂によって、もともと40条だった条文数が、71条に増えています。「法執行権限の拡大」「反スパイ活動への協力者の保障」「行政罰の種類・処理手段の整備」「反スパイ工作への監督」などが改訂されています。
私が全条文を読んで特に気になったのは、3つの条文でした。
第1に、第4条の「本法に言うスパイ行為とは、以下の行為を指す」というスパイ行為の類型です。
要約すると、
①中国の国家安全に危害を及ぼす活動
②スパイ組織への参加、スパイ組織とその代理人の任務を引き受けること、スパイ組織、及びその代理人に頼ること
③国家秘密、インテリジェンス、その他の国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品を窃取、偵察、買収、不法に提供する活動
④国家機関、秘密に関わる機関、重要情報インフラ等に対するサイバー攻撃、侵入、妨害、制御、破壊等の活動
⑤敵のために、攻撃目標を指示すること
⑥その他のスパイ活動
という内容です。
⑥の「その他のスパイ活動」というのは改訂前からあった文言ですが、「その他のスパイ活動」とは具体的に何なのかが分からず、拡大解釈の不安を覚えます。
③についても、「その他の国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品」という文言が新たに加わったのですが、どのような文書や資料が該当するのか不明です。
第2に、新設された第9条の「スパイ行為を告発したり、反スパイ活動で重大な貢献を果たしたりした個人と組織に対しては、国の関連規定に基づき表彰・奨励を与える」という条文です。
身近な存在だと思っていた中国人が、表彰・奨励を目当てに、日本人を告発する可能性も皆無ではありません。
第3に、第41条の「国家安全機関が、スパイ行為を調査・把握し、関連する証拠を収集する際、郵便・宅配便などの物流運営団体、電信業務経営者、インターネットサービスプロバイダは、必要な支援と協力を提供しなければならない」という条文です。
業務や友人との間でやり取りする郵便・宅配便・電話・メールの内容についても、最新の注意が必要になると思われます。
松野官房長官によると、中国における一連の邦人拘束事案については、日本政府から中国政府に対して、「早期帰国の実現」「司法プロセスにおける透明性の確保」などを、あらゆる機会に働きかけているということです。
先日の日中首脳会談でも、岸田総理から、この問題について発言をして下さったということです。
中国滞在中の日本人の皆様や、中国への出張を予定しておられる皆様には、ご自分の身を守るために、中国の『反スパイ法』の条文を読み込んでいただき、中国政府関係者や取引先との会話内容、社内や取引先や友人との間の郵便・宅配便・電話・メールの内容にも、十分な留意をしていただきたいと存じます。