言った言わない騒動に思う
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来週あたりから衆議院予算委員会では、アフガン復興支援会議へのNGO参加拒否問題の集中審議が行なわれるはずです。田中前外相、野上前事務次官、鈴木宗男前議運委員長各人の当時の言動について、真実を問う大変な議論になりそうです。
しかし、既に対立している当事者間での「言った」「言わない」といった類の事は、録音テープでも発見されない限りは何十時間審議しても真相は判らないと思います。国会運営を円滑化する為に、誰かが「私がウソをつきました」と答弁する羽目になるのでは・・でもそれは真実ではないかも・・という気がしてなりません。
むしろ私が知りたいのは、外務省が「アフガン復興支援会議に特定NGOの参加を認めない」と判断するに当たっての「組織としての判断基準」は何だったのか、ということです。特定政治家からの圧力などという説明は、対外的には出来ない種類のものです。外務省が、組織として対外的に堂々と説明出来る基準を持っていたのかどうかを知りたいのです。
「国民は真実を知りたいだけだ!」との反論もあるかと思いますが、国民の税金を使って行政の任に当たる機関が、あらゆる権限の執行に明朗明確な基準を整えているかどうかは重要なポイントだと思います。
「国会議員が役所の仕事に口を出す事は悪である」と言われたら、私たち議員の為すべき仕事は無くなります。三権分立を定めた憲法を読んでも、国会は国権の最高機関で、選挙で選ばれた国民の代表が行政をチェックする為に設置されていることが解ります。行政府から提出される法律案の審議とともに、役所の許認可権や法の運用が公正公平に行なわれているかをチェックするのも、私たちの大切な職務です。
だからこそ役所側は、常に堂々と私たちに説明出来る明確な基準を持たなくてはなりません。そして、国会議員の言い分が間違っていたら、その判断基準を示して毅然とはねつければ良いのです。
今回の騒動では、「小泉内閣の田中外相更迭人事が正しかったかどうか」もマスコミを賑わす争点となりました。
最悪だったのは、過去最悪の5・6%の失業率が発表される中で補正予算を人質に取った野党の国会対策でした。補正予算は、今年2月3月に執行される予ですから、成立が1日遅れるごとに発生する失業者数を考えると、総理は予算審議を動かす為の決断をせざるを得なかったのです。支持率低下を覚悟の上で、失業者対策と国益を優先させたのだと思います。
確かに、田中外相更迭のタイミングは総理にとって最悪でした。外相が国益を損ねる外交上の失策を繰り返し、更迭したとしても支持率が下がらないタイミングは過去に何度もありました。そういう時に庇って総理自身が傷ついてきたのに、今回の様に世論が田中外相寄りの時にどうして?と私も思いました。 しかし、数年間同じ政策グループで小泉総理の人柄に触れてきて容易に想像できるのは、恩人である田中外相の政治生命を守ったということです。外交上の失策(テロ後の国務省避難先漏洩、指輪騒動、アジア欧州会議での米国ミサイル防衛構想批判、日豪外相会談でのブッシュ大統領批判、日中外相電話会談での台湾李前総統ビザ発給しない発言、台湾が中国に統一されるべき発言、中国大使への総理靖国参拝反対表明等)で解任しては、彼女の政治生命に関わりましたが、総理自ら泥を被って田中さんにとって絶好のタイミングを選んだということです。
無実の罪で更迭されたという同情から田中さんの国民的人気は沸騰状態ですし、最近まで田中外相を更迭すべきと声を上げていた民主党側からも首班候補としての期待がかかるほど。田中前外相も大変悔しくつらい思いをされたことと思いますが、再び「未来の総理大臣候補」としての基盤を築かれたという点では、「災い転じて福」となりつつあるのではないでしょうか。
総理の真意は想像の範囲を越えませんが、いずれにしてもあのまま予算審議空転が続いていたら、田中外相も、外務省という組織の最高責任者としての監督責任や組織運営責任を問われることを免れなかったと思います。
国会の予算委員会で大臣と事務次官の答弁が食い違ったということは重大なことでした。省内案件を省内で整理・解決出来ずに、食い違いを国会に持ち込んだのはやはり外相の管理能力不足と言わざるを得ません。
野上事務次官も、外相をサポートすべき責務を果たせていませんでしたし、国会で事務次官と局長の答弁が食い違ったのは大問題で、これでは外務省は組織として体を為していません。事務次官も管理能力を問われたのです。
今回の一件は、民間企業の株主総会で社長と専務が逆の事を言ったようなものですから、両者は残念ながら解任されざるを得ません。十分に省内で議論して、外相も事務次官も局長も、組織を代表する者として国民に対しては責任ある同じ答弁をするのが筋だったと思います。信頼される組織とはそういうものでしょう。
今後の小泉内閣は大変だと思いますが、50%前後の支持率は、政策断行には丁度良い数字だと思います。
過去の田中内閣の最高支持率53%、吉田内閣の最高支持率55%、中曽根内閣の最高支持率46%、森内閣・村山内閣の最高支持率が40%であったことを考えると、十分に働ける数字です。
むしろこれまでは、小泉・田中という2大スターのキャラクター、塩じいキャラクターなどへの熱狂的ファン型支持率でしたが、今後の内閣が示す政策の一つ一つによって支持率が動くことが期待出来ます。
先週、官邸で総理にお会いしましたが、これまで以上に気合いが入っていました。「心配するな。今回の支持率は気にしてない。とにかく改革を断行するだけだ!」と元気溌剌。子分を作らず、一切のもらい物は断り、群れるのが嫌いな人ですから、これまでも「貸し借りで気を遣う相手がいない」という意味では一匹狼的怖いもの知らずでしたが、支持率低下で余計に「怖いものがなくなった」という感じです。
一方で、多くの議員は小泉総理の強さと怖さを思い知ったのではないでしょうか。「1内閣1閣僚」の方針は、出来るだけ長期にわたって大臣として手腕を振るえる政治主導体制を築く為の目標として素晴らしいものでしたが、国益を損ねたり総理の命令に従わないケースでは、支持率度外視で「看板閣僚ですら毅然と切る」という強さを示されたからです。
国民は今回の件で失望感や不安を感じつつも、一度は支持した内閣に政策の結果を出してもらうことを切望していると思います。
総理には、あまりカッコつけずに、総理を選んだ私たち国会議員や内閣を支持した国民に対して、もっともっと率直に正直に丁寧に事情や理由を説明して理解を求めつつ、臨機応変に政策を選択して、日本が良くなる結果を出していっていただきたいと願っています。