『宇宙安全保障構想(案)』について
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5月24日付け新聞各紙で、「宇宙安全保障」に関する記事が掲載されていましたね。
『宇宙安全保障構想』は、『国家安全保障戦略』(令和4年12月16日 国家安全保障会議・閣議決定)で示された政策と課題を具体化し、何をしていくのかの考え方を示し、安全保障に必要な今後約10年の取組を明らかにするものです。
すなわち、
- 宇宙安全保障上の目標や
- 目標を達成するためのアプローチ等
を示し、それらを『宇宙基本計画』における個別事業や工程表に反映することとしています。
『宇宙安全保障構想』は、宇宙政策を担当する私の所で原案を作成し、来週以降に正式決定する予定ですが、既に与党審査の段階で原案が報じられていますので、簡単にご説明致します。
ポイントは、3つのアプローチです。
将来的な姿として、まず、①安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大(宇宙からの安全保障)と、②宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保(宇宙における安全保障)の全体像を、安全保障のための宇宙アーキテクチャとして示す。その上で、これを実現するために③安全保障と宇宙産業の発展の好循環の実現を図るべきことを明らかにして、政府の宇宙安全保障上のニーズを民間部門に明確に示すことによって民間部門の投資を促進し、宇宙安全保障の一層の強化の実現を図ろうとするものです。
第1のアプローチ「安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大」では、
- 情報収集衛星の拡充や情報収集コンステレーションなどの構築による広域・高頻度・高精度な情報収集態勢の確立
- 弾道ミサイルや極超音速滑空兵器(HGV)などを捕捉するための技術実証や研究開発によるミサイル脅威への対応
などを行います。
第2のアプローチ「宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保」では、
- SDA(Space Domain Awareness:宇宙領域把握)衛星の保有や民間SSA(Space Situational Awareness:宇宙状況把握)サービスの利用による宇宙領域把握等の充実・強化
- 燃料補給技術を活用した衛星の長期的・経済的運用のためのライフサイクル管理
などを行います。
第3のアプローチ「安全保障と宇宙産業の発展の好循環の実現」では、
- 先端・基盤技術開発力の強化
- 重要技術の自立性確保
- 官民の総合力による実装能力の向上
などを進めます。
政府の安全保障上のニーズを民間部門に明確に示すことにより、民間投資が促進され、開発ペースの迅速化や製造コストの低廉化などを通じ、産業基盤・産業競争力が強化され、宇宙安全保障の一層の強化の実現に資することを期待しています。
ちなみに、中国は2007年1月に、ロシアは2021年11月に、衛星破壊実験を行いました。これにより生じた大量のスペースデブリが、宇宙空間の安定的な利用に深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。
『宇宙安全保障構想』は、このような事例を含め、宇宙空間をめぐる安全保障環境の現状と課題を踏まえて、策定するものです。
5月24日の報道では、中国やロシアの「衛星攻撃衛星(キラー衛星)」を監視することを念頭に米国などと宇宙空間の共同監視に当たる方針が明記されたとの記述もありました。
しかし、『宇宙安全保障構想』は、特定の国家を念頭に置いたものではございませんし、『宇宙安全保障構想(案)』には、「キラー衛星」という表現はありません。
その上で申し上げますと、宇宙物体の位置や軌道等の情報を把握する「宇宙状況把握(SSA)」に加え、宇宙物体の運用・利用状況と、その意図や能力を把握する「宇宙領域把握(SDA)」の機能を充実し、強化することとしています。
また、米英豪加によって運用される連合宇宙運用センター(CSpOC:米宇宙コマンド傘下の組織であり、SDAに関する計画、実行、評価等を担う)や、米英豪加NZ仏独による連合宇宙作戦イニシアチブ(CSpO:宇宙安全保障に必要な運用・体制・法的な課題等に関する各種議論が行われる枠組み)への参加を目指し、同盟国や同志国とともに我が国及びこれらの国々の官民の衛星を防衛するための取組を強化することとしています。