日本の国防①:守るべきは「国民の皆様の命」か「非核三原則」か?
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昨今、『非核三原則』を巡る議論が、熱を帯びています。
私自身の考え方は、講演や番組出演時に繰り返し表明しているところですが、改めて、この課題に対する見解を書かせて頂きます。
『非核三原則』は、「持たず」「作らず」「持ち込ませず」というものです。
日本は「核兵器国ではない国」として『核兵器不拡散条約』を批准していますから、「持たず」「作らず」を守ることは良いとしても、「持ち込ませず」については、有事の際に例外を認めることを選択肢に加える為の議論を行うべきだと考えています。
いざ有事の際に「持ち込ませず」を徹底してしまうと、過去にも指摘があったような「核兵器を搭載した米国の艦船が日本の領海を通行することは、認めない」「核兵器を搭載した米国の戦闘機が日本の領空内に入ることは、認めない」ということになります。
「日本は、米国の核の傘に守られている」と思っておられる方も多いかと存じますが、有事の際に「持ち込ませず」に拘り続けると、米国の「核抑止力」は機能しません。
先月、立憲民主党の泉代表が「持っていても使えない兵器が核兵器。抑止力にならない」と発言された旨を、新聞報道で拝見しました。
『非核三原則』に関しては、立憲民主党の前身政党である民主党が政権を担っておられた平成22年3月17日に、当時の岡田克也外務大臣が、衆議院外務委員会で、見事な答弁をしておられました。
「緊急事態ということが発生して、しかし、核の一時的寄港ということを認めないと日本の安全が守れないというような事態がもし発生したとすれば、それはその時の政権が政権の命運をかけて決断をし、国民の皆さんに説明する、そういうことだと思っております」。
平成22年4月12日にも、岡田外務大臣は、参議院決算委員会で、「有事の際に国内にある米軍の空軍基地に、爆撃機が一時的に核兵器を搭載した形で飛来するというような可能性」について問われ、再び次のように答弁されました。
「緊急時におけるそういった事態(核兵器を搭載した爆撃機が国内に一時的に飛来するような事態)が生じたとすれば、それは私が従来から申し上げておりますように、その時の政府がそのことを踏まえて、『非核三原則』というものはあくまでも守るのか、それとも国民の生命の安全ということを考えてそこで異なる決断を行うのか、それは、その時の政府の判断の問題であって、今からそのことについて縛ることはできないというふうに私は考えております」
その後、平成24年12月に、自民党は政権に復帰させて頂きました。
平成26年2月14日、今度は、岡田克也衆議院議員が、衆議院予算委員会で、ご自身の外務大臣としての答弁を安倍内閣が引き継いでいるのか、確認する質疑をされました。
「『非核三原則』を守るということを原則にしつつ、緊急時において内閣の判断で例外を認めるという答弁でありますが、現政権もこの方針を引き継いでおられるのかどうか、確認したいと思います」
これに対して、当時の岸田文雄外務大臣(現総理)は、「安倍内閣としましても、当時の岡田外務大臣が示された方針、引き継いでおります」と答弁されました。
さらに、同月、安倍内閣は、「現政権も(岡田外務大臣の)答弁を引き継いでいる」とする見解を、質問主意書に対する答弁書として、閣議決定まで行っています。
そして、今年(令和4年)3月7日の参議院予算委員会では、岸田文雄総理が、次の答弁をされました。
「(前略)かつて、2010年の当時の岡田外務大臣のこの発言でありますが、余り仮定の議論をすべきではないと思いますが、緊急事態ということが発生して、しかし、核の一時的寄港ということを認めないと日本の安全が守れないというような事態がもし発生したとすれば、それはそのときの政権が政権の命運を懸けて決断し、国民の皆さんに説明する、そういうことであるという発言があります。これが当時の岡田外務大臣の発言でありますが、こうした答弁について岸田内閣においても引き継いでいるというのが立場であります」
つまり、民主党政権から現在の自公政権まで、政府は、国民の皆様の安全が危機的状況になった時、『非核三原則』をあくまで守るのか、それとも「持ち込ませず」の部分について例外をつくるのか、それは、その時の政権が判断すべきことであって、将来にわたって縛ることはできないとの立場を、重ねて表明してきているのです。
『非核三原則』の「持ち込ませず」については、これを定めた国内法が在るわけではありませんが、過去の『国会決議』が存在しますから、有事の例外を検討する場合、国会においては賛否を分かつ大きな議論となるでしょう。
昭和46年(1971年)11月24日に、『非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する衆議院決議』において、「政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守するとともに、沖縄返還時に適切なる手段をもって、核が沖縄に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである」とされました。
昭和51年(1976年)4月27日に、『核兵器不拡散条約』の採決後に衆議院外務委員会において採択された決議でも、「政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずとの非核三原則が国是として確立されていることにかんがみ、いかなる場合においても、これを忠実に履行すること」とされています。
同年5月21日に、参議院外務委員会において採択された決議にも、同様の文章が含まれます。
しかし、昭和46年の国会決議から40年以上が経過し、当時と現在では、日本を取り巻く国際環境も外交事情も変わっています。
世界最多の核兵器を保有する「ロシア」、米国防総省の分析では核弾頭の保有数が10年間で5倍増と見込まれる「中国」、核実験とミサイル発射を繰り返し強行する「北朝鮮」と、いずれの国・地域にも隣接し、三方を囲まれた「世界有数の核兵器の最前線」に国土を構えているという現下の日本の地政学的な環境から、目を背けてはならないと思います。
重ねて申し上げますが、私は、従来の政府見解を踏まえ、「守るべきは、『国民の皆様の命』か、『非核三原則』か」という判断を迫られるような究極の事態に至った場合、「持たず」「作らず」は堅持するにしても、「持ち込ませず」を見直すことについては、「リスクの最小化に向けた備え」として考えておくべきことであり、議論を封じてはならないと考えています。
既に自民党政調会では、安全保障調査会の小野寺五典会長に、タブー無き議論をお願いしています。