いわゆる「派遣切り問題」への対応②
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前回の原稿では、企業側による「労働契約法」や「労働者派遣法」遵守の徹底、法規制強化検討の必要性、「雇用保険法」改正など、「派遣労働者へのセーフティネット強化」の観点から、私の考え方を述べました。
国会では、野党議員を中心に、「製造業への派遣禁止」を求める声が上っています。
今は副大臣として内閣の片隅に居る立場ですから、今後、麻生総理や関係閣僚がどのような判断を下されるのかを注視しなければならないのですが、私自身は、「今さら製造業への派遣を禁止する」ことには、慎重な考えです。
「今さら…」と書きましたのは、過去に、「能力主義」、「年棒制」、「多様な働き方」が脚光を浴び、若者の転職が増え始めた頃、私は、業種による事情の違いは認めた上で、「日本的経営の強みは『終身雇用』や『年功序列』にあったのではないか」と疑問を呈していたからです。
当時、キャノンの御手洗氏やシャープの町田氏も、「終身雇用」「年功序列」のメリットを主張されていました。
「技術や営業情報などが、企業内にストックされる」、「今すぐに花開かないが、将来的に企業に利益をもたらす可能性のある地道な取組みに努力する人を大切にできる」、「長期的に働いてくれる人には、企業側も安心して社員教育や技能研修にお金をかけることができる」「愛社精神や職場への忠誠心が、良い仕事をしていただく為に必要」といった理由を挙げておられたと記憶しています。
「製造業務」への労働者派遣が解禁された「改正労働者派遣法」が施行されたのは、平成16年でした。
残念ながら法施行時には私は国会議員の職には無かったのですが、法改正に向けた議論が進んでいた平成14年から15年にかけては、現在と同じ経済産業副大臣を務めていました。
当時は、今よりも景況は良かったものの、失業率は高く、平成14年の失業率は5・4%、平成15年は5・3%でした。
労働者側からは、以下の理由から、「派遣労働の対象職種拡大」や「派遣期間延長」を求められていました。
第1に、「『完全失業』という状態よりも『派遣という立場であっても職が有る』という状態の方がベターだ」というご意見を多く伺っていました。
実際に、その後の派遣労働対象職種拡充は、失業率を低く抑えることに貢献したと思います。
第2に、「短時間なら働きたい」という子育て中の女性や、「将来の夢を実現する為に、一定時間働きながら勉強も続けたい」という若者の「多様な働き方」への強いニーズもありました。
派遣労働を選択する理由としては、「好きな仕事を選べる」、「好きな期間や時間帯に働ける」、「好きな地域で働ける」というものが上位を占めます。
昨年(2008年)8月に派遣業界団体が実施した調査でも、「派遣労働者のうち、正規社員としての直接雇用を望む人の割合は50・7%」という結果となっています。
企業側からも、主に以下の理由から、派遣労働拡充への期待が寄せられました。
第1に、特に製造業では、国際競争の激化や消費者の嗜好変化から、「製品のライフサイクル」が短くなり、新製品に対応した生産ラインや生産量の変更などに、迅速な対応が必要になっていました。
第2に、中小零細企業では、「良い人材の確保」が困難だという事情があり、「募集作業へのコスト・労力負担」が大変だという声も上っていました。
労働者側にも、企業側にも、派遣労働拡充へのニーズは強かったのです。
昨秋以来、他国の不況による外需の冷え込みと円高によって、自動車・電機など輸出産業の業況が急速に悪化し、取引先となるその他の国内産業にも悪影響が出るなど、厳しい景況にあります。
このような中で、企業そのものが倒産することで正社員の職も失われる恐れがあることから、各企業がぎりぎりの「経営判断」として派遣労働者の削減を行っている状況であると思います。
そこで「業種規制強化(製造業への派遣禁止)」の議論が出てきたわけですが、冒頭に書きました通り、私の個人的見解は、今さら突然に製造業派遣を禁止することについては慎重です。
第1に、製造業派遣を禁止したとしても、その分「直接雇用(正規雇用)」が増える状況にはなく、製造業派遣労働者として働く約46万人は即刻失業してしまうことになります。
現在でも、製造現場には、派遣打ち切りの対象となっていない労働者もおられます。設計・評価などで派遣されている技能労働者は、給与も正社員並みで解雇もされていないという報告があり、これらの方々の職まで奪ってしまうことを懸念します。
第2に、日本国内で製造業を営む企業は柔軟な生産調整・雇用調整ができないといった制度になりますと、「景気拡大期」に入っても雇用機会が失われる可能性があります。
欧米諸国の殆どが「製造業」を派遣労働対象業種としている為、柔軟な対応ができる海外への移転が進むことも想定しておかなければならないと思います。
先般、ヨーロッパを中心に労働者派遣を行っている大手派遣会社の役員からお話を伺う機会を得ました。
「大切なのは、『フレキシビリティー(柔軟性)』と『セキュリティー(安全・担保)』の両立です」というのが、彼の主張でした。
オランダは長期失業者が少ないということですが、同国での派遣労働を巡る過去の議論の経緯を紹介して下さいました。
ウィムコック元首相が、「労働者に社会保障が与えられなければ、派遣業を規制する」と発言し、企業側は、「雇用調整が出来なくなると、国際競争に負ける」と反発。
その後、政労使で議論し、1998年には「フレキシビリティー&セキュリティー法」が成立したそうです。
「企業の『雇用調整』を認める代わりに『社会保障』を義務付ける」、「同一労働・同一賃金を原則とする」、「低スキルの人には、働きながら職業訓練を受けさせ、3年以内に正社員化する」といった責務を、使用者側に課しているとのことです。
日本でも、政労使の代表者による議論を受けつつ、総理や関係閣僚が方向性を示していかれることと存じますが、感情論ではなく、冷静に中長期的な視野も大切にしながら、「労働者の生活安定」と「国際競争力の確保」を両立できる政策を導き出していかなければならないと思います。
次回は、現在の私の守備範囲である経済産業行政から見た雇用政策について、書かせていただきます。
国会では、野党議員を中心に、「製造業への派遣禁止」を求める声が上っています。
今は副大臣として内閣の片隅に居る立場ですから、今後、麻生総理や関係閣僚がどのような判断を下されるのかを注視しなければならないのですが、私自身は、「今さら製造業への派遣を禁止する」ことには、慎重な考えです。
「今さら…」と書きましたのは、過去に、「能力主義」、「年棒制」、「多様な働き方」が脚光を浴び、若者の転職が増え始めた頃、私は、業種による事情の違いは認めた上で、「日本的経営の強みは『終身雇用』や『年功序列』にあったのではないか」と疑問を呈していたからです。
当時、キャノンの御手洗氏やシャープの町田氏も、「終身雇用」「年功序列」のメリットを主張されていました。
「技術や営業情報などが、企業内にストックされる」、「今すぐに花開かないが、将来的に企業に利益をもたらす可能性のある地道な取組みに努力する人を大切にできる」、「長期的に働いてくれる人には、企業側も安心して社員教育や技能研修にお金をかけることができる」「愛社精神や職場への忠誠心が、良い仕事をしていただく為に必要」といった理由を挙げておられたと記憶しています。
「製造業務」への労働者派遣が解禁された「改正労働者派遣法」が施行されたのは、平成16年でした。
残念ながら法施行時には私は国会議員の職には無かったのですが、法改正に向けた議論が進んでいた平成14年から15年にかけては、現在と同じ経済産業副大臣を務めていました。
当時は、今よりも景況は良かったものの、失業率は高く、平成14年の失業率は5・4%、平成15年は5・3%でした。
労働者側からは、以下の理由から、「派遣労働の対象職種拡大」や「派遣期間延長」を求められていました。
第1に、「『完全失業』という状態よりも『派遣という立場であっても職が有る』という状態の方がベターだ」というご意見を多く伺っていました。
実際に、その後の派遣労働対象職種拡充は、失業率を低く抑えることに貢献したと思います。
第2に、「短時間なら働きたい」という子育て中の女性や、「将来の夢を実現する為に、一定時間働きながら勉強も続けたい」という若者の「多様な働き方」への強いニーズもありました。
派遣労働を選択する理由としては、「好きな仕事を選べる」、「好きな期間や時間帯に働ける」、「好きな地域で働ける」というものが上位を占めます。
昨年(2008年)8月に派遣業界団体が実施した調査でも、「派遣労働者のうち、正規社員としての直接雇用を望む人の割合は50・7%」という結果となっています。
企業側からも、主に以下の理由から、派遣労働拡充への期待が寄せられました。
第1に、特に製造業では、国際競争の激化や消費者の嗜好変化から、「製品のライフサイクル」が短くなり、新製品に対応した生産ラインや生産量の変更などに、迅速な対応が必要になっていました。
第2に、中小零細企業では、「良い人材の確保」が困難だという事情があり、「募集作業へのコスト・労力負担」が大変だという声も上っていました。
労働者側にも、企業側にも、派遣労働拡充へのニーズは強かったのです。
昨秋以来、他国の不況による外需の冷え込みと円高によって、自動車・電機など輸出産業の業況が急速に悪化し、取引先となるその他の国内産業にも悪影響が出るなど、厳しい景況にあります。
このような中で、企業そのものが倒産することで正社員の職も失われる恐れがあることから、各企業がぎりぎりの「経営判断」として派遣労働者の削減を行っている状況であると思います。
そこで「業種規制強化(製造業への派遣禁止)」の議論が出てきたわけですが、冒頭に書きました通り、私の個人的見解は、今さら突然に製造業派遣を禁止することについては慎重です。
第1に、製造業派遣を禁止したとしても、その分「直接雇用(正規雇用)」が増える状況にはなく、製造業派遣労働者として働く約46万人は即刻失業してしまうことになります。
現在でも、製造現場には、派遣打ち切りの対象となっていない労働者もおられます。設計・評価などで派遣されている技能労働者は、給与も正社員並みで解雇もされていないという報告があり、これらの方々の職まで奪ってしまうことを懸念します。
第2に、日本国内で製造業を営む企業は柔軟な生産調整・雇用調整ができないといった制度になりますと、「景気拡大期」に入っても雇用機会が失われる可能性があります。
欧米諸国の殆どが「製造業」を派遣労働対象業種としている為、柔軟な対応ができる海外への移転が進むことも想定しておかなければならないと思います。
先般、ヨーロッパを中心に労働者派遣を行っている大手派遣会社の役員からお話を伺う機会を得ました。
「大切なのは、『フレキシビリティー(柔軟性)』と『セキュリティー(安全・担保)』の両立です」というのが、彼の主張でした。
オランダは長期失業者が少ないということですが、同国での派遣労働を巡る過去の議論の経緯を紹介して下さいました。
ウィムコック元首相が、「労働者に社会保障が与えられなければ、派遣業を規制する」と発言し、企業側は、「雇用調整が出来なくなると、国際競争に負ける」と反発。
その後、政労使で議論し、1998年には「フレキシビリティー&セキュリティー法」が成立したそうです。
「企業の『雇用調整』を認める代わりに『社会保障』を義務付ける」、「同一労働・同一賃金を原則とする」、「低スキルの人には、働きながら職業訓練を受けさせ、3年以内に正社員化する」といった責務を、使用者側に課しているとのことです。
日本でも、政労使の代表者による議論を受けつつ、総理や関係閣僚が方向性を示していかれることと存じますが、感情論ではなく、冷静に中長期的な視野も大切にしながら、「労働者の生活安定」と「国際競争力の確保」を両立できる政策を導き出していかなければならないと思います。
次回は、現在の私の守備範囲である経済産業行政から見た雇用政策について、書かせていただきます。