漁業者への燃費補填の是非を考える
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先般、漁業に従事しておられる方々が一斉に休漁して東京で大会を開き、政府や国会議員へのアピールをされてから、「漁業者への燃費直接補填」の是非が大きな話題になっています。
既に福田内閣は、昨年12月と今年6月に、2次に渡って「原油等高騰対策」を打ち出して支援策を実施していますが(平成19年度補正と平成20年度予算で2150億円計上・漁業者には102億円の基金で対応)、自民党からは、先月下旬に、「政府が実施している緊急対策の拡充」や「支援策の使い勝手の改善」に関する申し入れを行ったところです。
ところが、民主党が、「漁業者に対して、2年前の燃料価格との差額分を 直接補填する」という政策を打ち出しました。
自民党でも、この差額補填の要否については様々な意見が出ています。
私自身は、現実的には「漁業者のみへの直接支払い方式の補填」は困難だと思っています。
私は内陸部の奈良県から選出されている為、漁業の大会にはお招きがありませんでしたが、報道番組で「出漁すれば赤字になるし、船のローンを抱えたままで、どうしていいやら分からない」という漁業者のお声を伺いますと、その窮状が伝わってきますし、自民党所属議員全員が、民主党が主張するように「燃料の高騰分は全て国が支払います」と言ってあげたい気持ちで一杯だと思います。
しかし、漁業者に燃費を補填するとしたら、その財源は「全ての国民の税負担」によるものですから、原油価格高騰の悪影響を受けている他の産業と著しく不公平にならないことと、財源を負担する納税者が納得できる形であることが重要だと思います。
漁業については、「セリで魚価が決定するので、燃費高騰分の価格転嫁が困難」、「例えば、魚が100円で売れたとしても、流通業者の取り分を除くと、漁業者の取り分は24円にしかならない(農業なら約44円)」という事情や、「生産コストに占める燃料代の割合が3割以上に達している」という困難な状況にあることは承知しています。
しかし、漁業と同じ様に、燃費高騰に苦しみながらも価格転嫁が困難な産業は多くあります。トラック、バス、タクシー、農業、畜産、クリーニング、銭湯、中小零細製造業などです。
トラック業界については、大手企業では燃料サーチャージ制を導入されるところもありますが、中小事業者では「うっかり荷主さんに価格転嫁をお願いすると、仕事をもらえなくなる」という声も多く、ギリギリのコスト削減努力を続けておられます。
また、漁業用A重油はもともと免税扱いで優遇されていますので、この上、漁業者だけに燃費補填を行うとなると、燃料税負担もしながら頑張っておられる輸送事業者からは不公平だというお声が上るだろうと思います。
漁業は生産コストの3割以上が燃費だということですが、ハウス栽培のバラやピーマンでは生産コストに占める燃料費の割合が4割を超えています。
私の選挙区では、バラや菊やぶどうをハウス栽培している農家が多くありますが、政府の緊急対策に含まれている融資やヒートポンプ導入支援の利用を検討しながら、何とか苦境を乗り切ろうと努力しておられるところです。
もしも、既に今年度予算に計上されている以上の原油高騰対策を追加するのであれば、「税負担と受益」の公平性の観点から、他の産業にも広く支援ができる政策にするべきだと思います。
民主党の「漁業者だけに原油価格高騰分を補填する」という政策は、余りにも不公平であると感じます。
また、民主党が主張されるように「2年前の燃料価格との差額を補填する」ということになりますと、原油価格が2年前の水準に戻るまで補填を続けなくてはなりません。
原油価格が1~2年で下落するという見通しがあれば、補填策も可能かもしれませんが、残念ながらかなり長期的な対応にならざるを得ないと思います。
公平性の観点から被害を被っている全産業を対象にすると、莫大な財源が必要になりますし、もしも「1年間だけの支援策」と期限を定めた場合には、期限切れの折に急激な負担増が直撃して混乱が起こることは目に見えています。
G8財務大臣会合での額賀大臣や北海道洞爺湖サミットでの福田総理のご努力もあって、
ようやく米国政府も「ドル安が原因となった原油先物取引市場での投機が、世界的な原油価格高騰の要因」であることを認めたようで、ブッシュ大統領が「強いドルの必要性」を、ポールソン財務長官が「ドル買い介入」に関する発言をされました。
商品先物取引委員会が「WTI取引の監視強化」を発表したことも、明るい材料ではあります。
現在の異常な投機による高騰は少し沈静化するかもしれませんが、中長期的には、中国やインドなど新興国の原油需要が増え続け、需給のみで原油価格が決まったとしても高止まり傾向は続くと思います。
甘利経済産業大臣が6月に産油国を訪問し、サウジ、クウェート、イラクの増産了承を取り付けられたことは、評価されるべき行動だと思います。
今後、福田内閣にお願いしたいのは、以下の3点です。
①補正予算による公平な「緊急措置的産業支援策」の拡充
②長期的な資源価格高傾向でも「勝ち残れる産業構造・エネルギー構造」への改革支援
③原油先物市場への投機資金流入や需給バランス等、「国際的要因への対応」続行
漁業者向け基金(「水産業燃油高騰緊急対策基金」平成19年度補正102億円)についても、取り崩されてきているでしょうから、いずれ「基金の積み増し」が必要ですし、漁業者のお声を十分に伺って「使い勝手の改善」を行うべきだと思います。
基金を活用した「輪番休漁補償」についても、多くの浜で活用していただくために、運用改善すべきところを早急に改善しなくてはなりません。
狭い海域に多くの漁船が出漁して早いもの勝ちで魚を獲ると、移動も高スピードで燃費がかかるので、輪番で休漁していただき、少数の船で出漁して低スピードで漁をすること、休漁にあたる方々には、藻場造成など水産資源回復に資する作業をしていただき、助成金を出すという施策ですが、実施された関係者のお声を十分に伺いながら、施策内容を進歩させる必要があると思います。
また、「原油価格が高くても続けられる漁業への転換」という意味では、政府の助成金を、「計画的仕入れと流通合理化で漁業者の取り分増やす」、「漁村での加工や販路開拓」、「省エネ船への転換」などの取組みに、より活用していただきやすい方法を考えなければなりません。
既に、「集魚灯を白熱灯から発光ダイオードに替えると、燃料消費量が20%~50%減になった」、「低抵抗素材の網に替えると、燃料消費量が14%~17%減になった」等のデータも出てきていますので、「魚群探索システム導入支援」や「経済性の低い古い船の廃船コスト補助」などとともに、前向きな改善を進めていくべきだと思います。
ちなみに、野党が絶賛している「EUの20億ユーロ(約3400億円)の漁業支援策」も、船舶数削減や低燃費エンジン導入といった条件付きの支援です。
福田内閣は、まだ補正予算を組むかどうかは決定していないと聞いています。多分、福田総理のお考えは、「まずは既に措置してある予算を前倒しで使っていただいて、必要があれば補正予算で対応する」ということなのだろうと思います。
今後、政府が補正予算や来年度予算を組んでいく時に留意していただきたいのは、産業対策とともに、「生活者」への対策です。
昨年末にも、政府の第1次原油高騰対策で「高齢者・母子家庭など住民税非課税世帯への灯油購入補助」、「社会福祉施設への暖房費補助」、「離島航路や地方バス向け助成金」などを手当てしていただきましたが、第1次対策と、先月の第2次対策が適切に執行されているかどうかをフォローアップした上で、充実をしていただきたいと願います。
更に、日本の原子力発電技術・核燃料サイクル技術・省エネ技術の世界への普及と、石油代替燃料開発の促進、国家的資源戦略(メタンハイドレードやレアメタルの採掘・東シナ海ガス田の開発)構築にも力を入れて取り組む必要があると考えます。
既に福田内閣は、昨年12月と今年6月に、2次に渡って「原油等高騰対策」を打ち出して支援策を実施していますが(平成19年度補正と平成20年度予算で2150億円計上・漁業者には102億円の基金で対応)、自民党からは、先月下旬に、「政府が実施している緊急対策の拡充」や「支援策の使い勝手の改善」に関する申し入れを行ったところです。
ところが、民主党が、「漁業者に対して、2年前の燃料価格との差額分を 直接補填する」という政策を打ち出しました。
自民党でも、この差額補填の要否については様々な意見が出ています。
私自身は、現実的には「漁業者のみへの直接支払い方式の補填」は困難だと思っています。
私は内陸部の奈良県から選出されている為、漁業の大会にはお招きがありませんでしたが、報道番組で「出漁すれば赤字になるし、船のローンを抱えたままで、どうしていいやら分からない」という漁業者のお声を伺いますと、その窮状が伝わってきますし、自民党所属議員全員が、民主党が主張するように「燃料の高騰分は全て国が支払います」と言ってあげたい気持ちで一杯だと思います。
しかし、漁業者に燃費を補填するとしたら、その財源は「全ての国民の税負担」によるものですから、原油価格高騰の悪影響を受けている他の産業と著しく不公平にならないことと、財源を負担する納税者が納得できる形であることが重要だと思います。
漁業については、「セリで魚価が決定するので、燃費高騰分の価格転嫁が困難」、「例えば、魚が100円で売れたとしても、流通業者の取り分を除くと、漁業者の取り分は24円にしかならない(農業なら約44円)」という事情や、「生産コストに占める燃料代の割合が3割以上に達している」という困難な状況にあることは承知しています。
しかし、漁業と同じ様に、燃費高騰に苦しみながらも価格転嫁が困難な産業は多くあります。トラック、バス、タクシー、農業、畜産、クリーニング、銭湯、中小零細製造業などです。
トラック業界については、大手企業では燃料サーチャージ制を導入されるところもありますが、中小事業者では「うっかり荷主さんに価格転嫁をお願いすると、仕事をもらえなくなる」という声も多く、ギリギリのコスト削減努力を続けておられます。
また、漁業用A重油はもともと免税扱いで優遇されていますので、この上、漁業者だけに燃費補填を行うとなると、燃料税負担もしながら頑張っておられる輸送事業者からは不公平だというお声が上るだろうと思います。
漁業は生産コストの3割以上が燃費だということですが、ハウス栽培のバラやピーマンでは生産コストに占める燃料費の割合が4割を超えています。
私の選挙区では、バラや菊やぶどうをハウス栽培している農家が多くありますが、政府の緊急対策に含まれている融資やヒートポンプ導入支援の利用を検討しながら、何とか苦境を乗り切ろうと努力しておられるところです。
もしも、既に今年度予算に計上されている以上の原油高騰対策を追加するのであれば、「税負担と受益」の公平性の観点から、他の産業にも広く支援ができる政策にするべきだと思います。
民主党の「漁業者だけに原油価格高騰分を補填する」という政策は、余りにも不公平であると感じます。
また、民主党が主張されるように「2年前の燃料価格との差額を補填する」ということになりますと、原油価格が2年前の水準に戻るまで補填を続けなくてはなりません。
原油価格が1~2年で下落するという見通しがあれば、補填策も可能かもしれませんが、残念ながらかなり長期的な対応にならざるを得ないと思います。
公平性の観点から被害を被っている全産業を対象にすると、莫大な財源が必要になりますし、もしも「1年間だけの支援策」と期限を定めた場合には、期限切れの折に急激な負担増が直撃して混乱が起こることは目に見えています。
G8財務大臣会合での額賀大臣や北海道洞爺湖サミットでの福田総理のご努力もあって、
ようやく米国政府も「ドル安が原因となった原油先物取引市場での投機が、世界的な原油価格高騰の要因」であることを認めたようで、ブッシュ大統領が「強いドルの必要性」を、ポールソン財務長官が「ドル買い介入」に関する発言をされました。
商品先物取引委員会が「WTI取引の監視強化」を発表したことも、明るい材料ではあります。
現在の異常な投機による高騰は少し沈静化するかもしれませんが、中長期的には、中国やインドなど新興国の原油需要が増え続け、需給のみで原油価格が決まったとしても高止まり傾向は続くと思います。
甘利経済産業大臣が6月に産油国を訪問し、サウジ、クウェート、イラクの増産了承を取り付けられたことは、評価されるべき行動だと思います。
今後、福田内閣にお願いしたいのは、以下の3点です。
①補正予算による公平な「緊急措置的産業支援策」の拡充
②長期的な資源価格高傾向でも「勝ち残れる産業構造・エネルギー構造」への改革支援
③原油先物市場への投機資金流入や需給バランス等、「国際的要因への対応」続行
漁業者向け基金(「水産業燃油高騰緊急対策基金」平成19年度補正102億円)についても、取り崩されてきているでしょうから、いずれ「基金の積み増し」が必要ですし、漁業者のお声を十分に伺って「使い勝手の改善」を行うべきだと思います。
基金を活用した「輪番休漁補償」についても、多くの浜で活用していただくために、運用改善すべきところを早急に改善しなくてはなりません。
狭い海域に多くの漁船が出漁して早いもの勝ちで魚を獲ると、移動も高スピードで燃費がかかるので、輪番で休漁していただき、少数の船で出漁して低スピードで漁をすること、休漁にあたる方々には、藻場造成など水産資源回復に資する作業をしていただき、助成金を出すという施策ですが、実施された関係者のお声を十分に伺いながら、施策内容を進歩させる必要があると思います。
また、「原油価格が高くても続けられる漁業への転換」という意味では、政府の助成金を、「計画的仕入れと流通合理化で漁業者の取り分増やす」、「漁村での加工や販路開拓」、「省エネ船への転換」などの取組みに、より活用していただきやすい方法を考えなければなりません。
既に、「集魚灯を白熱灯から発光ダイオードに替えると、燃料消費量が20%~50%減になった」、「低抵抗素材の網に替えると、燃料消費量が14%~17%減になった」等のデータも出てきていますので、「魚群探索システム導入支援」や「経済性の低い古い船の廃船コスト補助」などとともに、前向きな改善を進めていくべきだと思います。
ちなみに、野党が絶賛している「EUの20億ユーロ(約3400億円)の漁業支援策」も、船舶数削減や低燃費エンジン導入といった条件付きの支援です。
福田内閣は、まだ補正予算を組むかどうかは決定していないと聞いています。多分、福田総理のお考えは、「まずは既に措置してある予算を前倒しで使っていただいて、必要があれば補正予算で対応する」ということなのだろうと思います。
今後、政府が補正予算や来年度予算を組んでいく時に留意していただきたいのは、産業対策とともに、「生活者」への対策です。
昨年末にも、政府の第1次原油高騰対策で「高齢者・母子家庭など住民税非課税世帯への灯油購入補助」、「社会福祉施設への暖房費補助」、「離島航路や地方バス向け助成金」などを手当てしていただきましたが、第1次対策と、先月の第2次対策が適切に執行されているかどうかをフォローアップした上で、充実をしていただきたいと願います。
更に、日本の原子力発電技術・核燃料サイクル技術・省エネ技術の世界への普及と、石油代替燃料開発の促進、国家的資源戦略(メタンハイドレードやレアメタルの採掘・東シナ海ガス田の開発)構築にも力を入れて取り組む必要があると考えます。