コラム

　５月１０日、菅総理大臣は、昨年６月に自らの内閣で閣議決定した『エネルギー基本計画』の見直しを表明されました。

　『エネルギー基本計画』には、次のように記されています。
「エネルギー起源ＣＯ２排出量について、２０３０年に９０年比▲３０％程度もしくはそれ以上の削減を見込む」
「原子力発電所を、２０２０年までに９基、２０３０年までに１４基以上新設する」

　海江田経済産業大臣は、４月の衆議院経済産業委員会で「再生可能なエネルギーというものが増えていくことは、私は一つの流れだろうと思います。ただ、だからと言って原子力が全くゼロでは、これはもちろんこの日本経済が立ち行かなくなるわけですから、そこは現実の問題も踏まえながら…」と答弁され、原子力発電を容認していく考えを示しておられます。

　５月８日には、菅総理大臣が「中部電力以外の電力会社に対しては、（原子力発電所の）運転停止要請をしない」旨を表明され、仙谷由人官房副長官も「エネルギー政策としては原発を堅持する」と発言されました。

　しかし、浜岡原子力発電所の停止以降、全国各地の検査済みの原子力発電所まで再稼動が困難な状況になっています。
　今後の日本では、徐々に原子力から他の電源への移行が進むことになるのでしょう。

　私自身も、原子力に頼らない電源構成で必要な電力量確保ができることが理想だとは考えますが、そのためにコストを度外視して集中的な研究開発や社会インフラ整備を行ったとしても、実現までには１０年～２０年を要するのではないかと思います。

　現状の電源構成を発電電力量（２００９年度実績）で見ますと、原子力が２９％、火力が６２％（内訳：小数点以下略で、ＬＮＧ２９％、石炭２５％、石油等７％）、再生可能エネルギーが９％です。

　再生可能エネルギーのうち、大規模水力が８％ですから、いわゆる「新エネルギー」については、僅か１％の発電量しかありません。
　その内訳は、バイオマスを含む廃棄物等が０・３％、地熱が０・３％、風力が０・３％、太陽光が０・３％です。
 

　こうした現状ですから、今すぐに「原子力発電からの脱却」を声高らかに叫ぶとしたら、それは欺瞞でしかなくなるでしょう。
　現実的には、「段階的に原子力発電を減らすこと」と「再生可能エネルギーの普及促進」を視野に入れながら、まずは「稼動中の原発の安全性を高める」という方法しかないのだろうと思います。

　菅総理大臣が『エネルギー基本計画』を如何なる方向に修正されるのかは定かではありませんが、仮に「当面は、原子力による発電電力量を、火力発電所と水力発電所の大増設で補おう」ということでしたら、この際、民主党政権がこれまで主張してきた「コンクリートから人へ」や「９０年比２５％減のＣＯ2削減」という方針についても、大転換を宣言されなくてはなりません。

　自民党政権では、原子力政策を推進する一方で、「新エネルギー普及」や「省エネルギー技術向上」のための予算措置も着実に実施していました。

　しかし、平成２１年の政権交代直後、当時の鳩山総理大臣は、高過ぎるＣＯ2削減目標を国際公約する一方で、事業仕分けなどにより、自民党政権時代に実施していた多くの新エネ・省エネ対策予算を廃止・縮減しました。

　民主党政権が初めて編成した平成２２年度予算では、「地球温暖化防止のための教育の推進」と「低品位炭改質技術開発」は廃止されました。

　また、「エネルギー使用合理化事業者支援事業」、「高効率給湯器導入促進事業」、「中小企業の排出削減設備導入支援」、「環境・エネルギー対策資金」（日本政策金融公庫）、「燃料電池の技術開発・導入支援」、「革新的な新エネルギー技術開発の促進」、「カーボンフットプリント制度構築等事業」、「資源生産性向上連携促進事業」、「地域における省エネ家電買換えによるCO2削減量の見える化」、「省エネ診断やESCO事業等の促進」、「低温室効果冷媒を用いた省エネエアコン開発」、「グリーンＩＴプロジェクト」、「エネルギーＩＴＳ推進事業」、「ゼロ・エミッションハウス実現に向けたシステム技術開発・実証事業」、「次世代型の低消費電力半導体基盤技術開発」は縮減されました。

　日本が新たなエネルギー政策に向かうには、菅総理大臣が「省エネ・新エネ大国を創るために、あらゆる政策を動員する」という決意を固めて下さることが必要なのです。