「日本の水源林を守る議員勉強会」報告①:これまでの議論概要
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昨日(10月13日)、第3回の「日本の水源林を守る議員勉強会」を開催しました。
この勉強会を作ったきっかけについては、4月22日のコラムにも書かせていただきましたが、私たちにとって貴重な水資源の源であり災害防備など様々な公益的機能を持つ国の基本インフラである森林を、外国人や外国法人(中国人)が買収しつつあるという動きに危機感を覚えたことでした。
水資源保全や国土保全の為には、長期的な国益の視点に立ったルール作りが必要です。
中国資本による買収も心配ですが、そもそも日本には総合的な地下水の涵養と利用について規定した法律が無く、山林地籍の確定も不十分。
加えて、林業の長期低迷が続き、植栽(植林)・間伐が十分に行われないことから、水源涵養機能そのものが損なわれている恐れがありました。
参院選前に開催した勉強会では、「外国人や外国資本による保安林(森林法に基づく17種)の取得に、一定の規制をかける内容の法案概要」と「植栽、地籍確定、人材育成などを進め、水源涵養機能を取り戻す為の措置を盛り込んだ法案概要」の2本(高市早苗私案)を、叩き台として出席議員にお示しして、自由にご議論いただきました。
その後、この夏の国会閉会期間を利用して、これまでの2回の会議で議論した内容を盛り込みつつ、新たに2本の法律案の骨組みを書いてみました。
昨日の会議ではこれらの法律案をお示しして、活発な議論を致しました。
「無秩序な取水の阻止」、「水源涵養の促進」、「外国資本による買収阻止」という複数の目的を達成する為には、1本の法律では対処できず、3本の法整備をする必要があります。
外国人や外国資本による買収を阻止することは、条約との関係もあって、立法技術上は最も困難です。取水ルールと水源涵養促進に関する法律案を先行させることにしました。
本勉強会として粘り強く取り組み、1本ずつ出来上がった順に国会に提出してまいりたいと思います。
この勉強会の活動につきましては、日本各地から多くのご激励のメールをいただいており、感謝申し上げております。
法律案提出の時期や内容などをご質問いただくメールも増えてまいりましたので、今回は、過去2回の勉強会で参加議員や衆議院法制局からいただいた論点を整理したメモを掲載します。
先行して作成中の2本の法律案概要も、この後、別掲でアップします。
【これまでに参加議員や法制局からご指摘いただいた問題点&アイデア】
1、外国人・外国法人による土地取得を制限することの是非について
《規制の合理的・相当な理由》
- 外国人・外国法人にのみ規制を課すことについて、合理的で相当な理由が必要。
- 利用規制だけでなく、所有規制まで行う必要性はあるか。
《対日投資への悪影響・外資規制強化の是非》
- 土地取引規制の強化は、時代に逆行し、対日投資の減少に繋がらないか?
- 農地法改正時に、外国法人の農地取得や農業生産法人への出資に制限をかける必要性を主張したら、大議論になった。
- 空港ビル管理の外資規制の議論の時も、日本の閉鎖性を発信することになるという意見があった。
- 二国間の投資に関する条約について、内国民待遇の留保を土地取引について行っていない場合には、条約違反となる可能性がある。
《売却の機会を制限される地主への配慮》
- 林地の売買が滞る可能性がある。個人の資産に制限を加えるには、何らかの補償、メリットが必要。
- 外資規制する程に重要な場所は、国有化するという選択肢も考えられないか?
- 森林を持っている人は、公用で土地を買って欲しいと考えている。
- 公有林化する場合には、相当な財源の手当が必要。
- 既に取得された土地に対する関与は、財産権の侵害になる。
《実効性の確保》
- 日本人が仲介する取引について、外国人の関与が判りにくい。
- 不動産登記記録からは登記名義人の国籍は把握できない。「不動産登記法」の改正が必要か?
- 「所有」を制限しても、「賃借」を制限しなければ意味がない。
- 「外国人土地法」改正で対処する場合、保有者と使用者が違う場合の対応は?
《規制の具体的方法》
- 「原則禁止+許可制・事前承認制」とするか? (参考/外国人土地法、外国政府の不動産に関する権利の取得に関する政令)「事前届出制」とするか?(参考/外為法:事前届出に基づき行政庁の審査を行い、問題が有る場合に勧告・中止命令)
- 許可・承認・審査の基準、規制対象地域の指定方法は?(政令)
- 土地基本法第2条=「土地については、公共の福祉を優先させるものとする」
2、水資源保護の必要性&実効性について/土地取得制限よりも取水制限が必要
- 今後、ロシア、中国との争いは水になるだろう。水源林を守るという形よりも、水資源そのものを外国から保護するという方向で考えられないか?
- 中国は地下水まで汚染されているから、関心が高いのだろう。
- 飲料水は1バレルあたり30~40ドルで、石油と同じ価値がある。
- 吉野家の牛丼1杯に使用する水の量は、1800リットル。お風呂10杯分。
- 水源涵養保安林を守っても、「地下水」及び「普通河川水」(「河川法」で制限が可能な1級・2級河川以外)の取水に制限をかけなければ実効性が無い。
- 土地については、名義はあっても担保設定されて実効支配されている地主がいる。水不足など緊急事態の時に、市町村の権限で取水を制限するという方法が最も実効的では?
- 北海道では、地下水の汲み上げに制限をかける条例有り(国土交通省談)。
- 水の国外持ち出しを規制するという方法もある。土地を買っても無意味になる。
3、地籍の確定について
- 自公提出で廃案になった「地球温暖化の防止等に貢献する木材利用の推進に関する法律案」第15条=「国及び地方公共団体は、…森林所有権の境界の明確化を促進するための措置…その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする」が成立していればよかったのだが。
- カーナビにも全国のデータが入っており、農地・山林をデータベース化できるのではないか?そうすれば、抑止力になる。農地は、農水省がやっているが進んでいない。山も所有関係をデータ化すると、副次的効果を発揮する。
- 「地理空間情報活用推進基本法」という法律に基づく「地理空間プロジェクト」があり、国土をデータ化して、衛星から利用を管理する。党マニフェストにも入っている。電子データを使って、水源林管理という方法もあるのでは?
- 「国土利用計画法」第23条は、土地売買等の契約による権利取得者に届出義務を課しているが、届出が必要な面積要件を強化する必要があるのでは?現行法では、林地売買の届出義務は、1ha以上に限定されており、それ以下のものが分らなくなってしまう。
- 不在地主については、一定の時限を決めて調査を国か自治体に帰属させる必要がある。年金問題と同じ様にやる必要がある。
4、山林保護(植栽促進・林業経営支援等)について
- 通常国会で成立した政府提出の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」によっては手当できない林業経営支援策を検討する。
- 植栽等、森林管理の費用支援については、自民党・無所属の会が6月14日に提出した「農業等の有する多面的機能の発揮を図るための交付金の交付に関する法律案」(衆議院・継続審議)なら手当可能だった。
- 「森林法」第25条に規定される「保安林」(水源涵養保安林を含む17種)に対する支援措置があるが、民有林の3割しか指定を受けていない。
- 植栽放棄にかかる罰金相当分の林地の没収⇒公有林化をしては?(日本財団)
- 植栽放棄や伐採制限違反には、各種減税措置の適用除外としては?(同上)
【参考:現行の保安林制度に基づく支援措置】
①固定資産税・不動産取得税・特別土地保有税の免除
②伐採制限内容に応じて、3~8割の相続税・贈与税の控除
③普通より高率の造林補助金
④㈱日本政策金融公庫による長期低利融資
⑤禁伐や伐採制限が課せられる保安林には、立木資産凍結による損失補償
【今後の議員立法作業の進め方について】(昨日の会議で了承された方針案)
☆下記①~③の目的別に、3本の法律案に分けて作業を進める。
①取水ルール作り
「地下水の利用の規制に関する緊急措置法案」(別掲=高市私案:要綱案)
- 総合的な地下水の利用を規律する為の法整備が行われるまでの緊急措置
- 地下水が、国民共通の貴重な財産であり、公共の利益に沿うように利用されるべき資源であるとの観点から、「地下水資源の保全」「渇水若しくはこれに準ずる事態における地下水の公的な利用」等のために必要な規制を設ける。
- 国土交通大臣・都道府県知事による地下水利用規制地域の指定
- 指定地域内の地下水利用方針の策定
- 水資源の保全等のための命令
- 指定地域内における採取の届出義務
②水源の涵養
「森林法の一部を改正する法律案」(別掲=高市私案:概要案)
- 森林法に定める全ての保安林について、権利の移転・設定に係る届出義務
- 植栽義務の履行確保策を規定
- 全ての民有林を対象とした国等の責務を規定
①山林に係る地籍確定等の促進
②森林区画整理事業の実施
③森林(林地)情報のデータベース化の推進
④新たな森林管理主体及び森林・林業に携わる人材の育成
⑤公有林化を行った都道府県への財政支援
⑥保安林の指定の促進
③外国人による土地取得制限
⇒ この1本の検討については、自民党の領土特命委員会(石破委員長)の下に、チームを作ってもらえないか、交渉する方が良いのでは?
「外国人土地法の一部を改正する法律案」(高市メモ)
- 日本人や日本法人等による土地取得を禁止または制限している国の国籍を持つ外国人や外国法人等による我が国領土内の土地に関する権利の取得及び権利の保有に関し(相互主義)、国防上、安全確保上、資源保全上重要な地域について、禁止又は許可制を導入することをもって、日本国の安全保障及び国民の権利保護に寄与することを目的とする。
- 「外国人」の定義=日本国の国籍を有しない個人
- 「外国法人等」の定義=日本法人又は外国法人であって、その社員、株主、役員の3分の1以上、又は資本の3分の1以上、若しくは議決権の3分の1以上が外国人又は外国法人に属するもの(現行2条が規定する「法人であって外国に属するものとみなす場合」を、航空法・船舶法・通信業法を参考に、「半数以上」⇒「3分の1以上」に)
- 外国人又は外国法人等による土地取得や権利の保有について、禁止、または許可制とする地域
- 国防上、安全確保上、資源保全上 必要な地域で、政令で定める所(自衛隊重要施設周辺、港湾・空港周辺、国境沿岸部、離島、保安林等)
- 罰則対象者
●取得・保有に大臣・知事の許可が必要な土地を許可無く取得した者
●上記の取引に関与した代理人・従業員
【外国人土地法改正についての論点:法制局から指摘を受けた点を中心に整理】
1、外国人に対する規制の必要性の有無
(当該土地を外国人が所有することで、具体的にどのような懸念が考えられるのか)
②外国人だけに規制を行う合理性はあるか。
(仮に、土地所有規制まで行う必要性がある場合には、外国人に限らず日本人も同様に規制しなければ目的は達せられないのではないか)
③目的につき、現行法の「国防」に限定するのか、「資源保全」等を含めるか?
2、手段の合理性・相当性
①対象地域が広範囲となる可能性があるが、現実的か。
- 2008.3.31の保安林面積は1,261万ha、国土全体の31%。
- 景観計画区域については、北海道や東京都等、全域指定の都道府県もある。
②禁止を行う区域を設けるのは、過剰な規制で弊害が大きくはないか。
③土地の利用規制だけでなく、所有規制まで行う必要性はあるか。
④許可制とする場合、具体的な許可基準についてどう考えるか。
(具体的な許可基準について、政令ではなく法律に規定する必要がある)
3、既に所有されている土地の取り扱いについて
①法施行前に合法に取得された土地についても遡及的に規制の対象とすることには、財産権の保護の観点から、特に慎重であるべきではないか。
②土地所有権を強制的に剥奪するとすれば、強力な財産権の侵害となるため、適正な手続と補償が必要となる。
③国が買い上げる場合は、その財源をどのように考えるか。
4、条約との関係について
②「WTO協定のサービスの貿易に関する一般協定」との関係についても検討を要する。
以上