民法&戸籍法改悪阻止シリーズ⑥:子の氏の安定性が損なわれる
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現行法制度では、夫婦は全て同氏ですから、子供の氏は出生と同時に決まります。
しかし、戸籍上も別氏という夫婦が出現した場合、その子供の氏の確定は困難な作業となるでしょう。
仮に出生届けを提出する際に子供の氏を確定する場合には、「両親が子供の氏を取り合って協議が整わない場合」や「出生時に夫婦が別居状態で協議が出来ない場合」に、長期間、子供の氏が定まらないケースが想定されます。
戸籍法第49条は「出生の届出は、14日以内にこれをしなければならない」としており、この規定に抵触する可能性が生じます。
夫婦別氏制度である台湾では、夫婦の署名入りで子供の氏を届けますが、夫婦間で協議が整わず届出ができなかった場合には、役所が抽選で子供の氏を決めていると聞きます。
夫婦別氏案が浮上する度に、私はこの点を指摘してきました。
政府では、戸籍法第49条への抵触を避ける為に、「婚姻届を提出する際に、生まれるかどうか分からない子供の氏も、前もって届けておく」という案を検討しているようです。
しかし、これでは、将来誕生するかもしれない孫の氏に関する両家の争いが発生し、婚姻そのものに漕ぎ着けられなくなるカップルも出現するでしょう。
更に、婚姻届時に確定した子供の氏についても、その後の変更が可能になるようです。
千葉法務大臣は、平成8年の法制審議会の答申をベースに「民法及び戸籍法の一部を改正する法律案」を準備していると聞きます。
この答申に基づくと、「子が未成年である間は、特別の事情が生じた場合に限り、家庭裁判所の許可を得て届け出ることによって、子の氏を変更することが可能」であり、「子の成人後は、特別な事情がなくても、家庭裁判所の許可を得て届け出ることによって、子の氏を変更することが可能」となります。
例えば、出生届の時点では、母親の実家の商売を継がせる予定で子供の氏を母方の氏にしたものの、高校生になった時に母親の実家が廃業。
それならば父親の実家の会社を継がせようということになって、子供の氏を父方の氏に変更。
ところが、成人した子供が使い慣れた氏への復帰を願って、自分で母親方の氏に変更してしまうといった事象も起こり得るでしょう。
親の離婚など「身分行為」がないにも関わらず子供の氏がコロコロと変わることになり、これまで民法が守ってきた「氏の安定性」は損なわれてしまいます。