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食品の安全性確保に向けて

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 お正月に、実家の床の間の鏡餅に載せられた干し柿を見ながら、亡くなった祖父のことを思い出していました。

 秋になると、祖父が柿を縄でゆわえて軒下に吊るし、干し柿を作ってくれたものでした。干し柿は保存食品ですから、冬の間中、祖父にねだっては少しずつ出してもらって食べていました。

 現在は、実家の床の間の干し柿も、お店で買ってきたものです。
 賞味期限は10日間と随分短い表示になっていて、「おじいちゃんの干し柿は、何ヶ月間も美味しく食べられたのになあ」と、何とも不思議な気分です。

 昨年は、食品の「消費期限」「賞味期限」「産地」などの表示が大いに話題になった年でした。
 
 1月、㈱不二家が期限切れ原料を使用したシュークリームを製造・販売したことが発覚。
 6月、ミートホープ㈱が牛肉ミンチに豚肉等を混入。
 8月、石屋製菓㈱の賞味期限付け替え。
 10月には、「比内鶏」が廃鶏を比内地鶏として偽装、「赤福」が消費期限付け替え、「御福餅本家」が製造年月日改竄、「船場吉兆」が消費期限付け替え・・と続々の発覚。
 11月には、「船場吉兆」の牛肉産地偽装、「マクドナルド」のフランチャイズ店で賞味期限切れ原料使用。

 突然に食の安全への信頼を揺るがす事件が続発したような印象ですが、私は、表示に関する偽装は過去にも多くあったはずだと思います。
 むしろ、「日本人の安全意識」が急速に進化し、「公益通報者保護法」も施行されたことで、企業内の不正が表面化しやすくなった結果だと感じます。

 一連の事件では、不正が長期間続けられていたケースが多かったようで、ある企業では「40年前からやっていた」という声まで聞かれました。
 そして、匿名通報が不正発覚のきっかけとなっていました。

 平成18年施行の「公益通報者保護法」は、「生命・身体・財産の保護」「消費者の利益」「環境保全」「公正競争確保」などに関わる不正について、組織内部の方が通報したとしても、通報者の解雇や派遣契約解除を無効とし、減給・降格等不利益的取扱いを禁止したものです。
 通報対象法令は、食品衛生法、JAS法、廃棄物処理法、金融商品取引法、個人情報保護法、独禁法、道路運送車両法、刑法、官製談合防止法などになります。

 『松下幸之助経営語録』に、「仕入先は得意先だ」という言葉があります。
 故・松下幸之助氏は、「今日のように、これだけ人と人、会社と会社との結びつきが複雑多岐になってくれば、大きな目で見た場合、どんな人でも、どのような会社でも、なんらかの形でお得意先である、ということが言えるように思う。そう考えると、あだおろそかな態度で仕入先の人に接することはできない」と発言されています。
 松下電器産業は家電メーカーですから、食品と同じく、全ての人が消費者になります。こちらがお金を払う仕入れ先に対しても、偉そうにせずに誠心誠意接する必要性を、社員に説明したものと思われます。

 松下氏の言葉を借りて考えてみると、食品産業では、出入り業者のみならず、「従業員も得意先」なのです。社員もパートやアルバイトの方も、消費者なのです。
 会社内部に居られる消費者の安全意識の進歩に、経営者の意識がついていっていなかったケースが多いのではないかと思います。

 また、事案によっては、「同族経営」のデメリットもあったかと思います。社員が改善を提案しにくい空気があったのでしょう。

 さて、国政の場では「再発防止」に向けた取組みが必要となります。

 まず、学校教育段階からの「消費者教育の充実」は不可欠でしょう。結果的には、「未来の経営者教育」にもなるわけです。
 
 次に、「食品表示方法の見直し」も検討の対象であるべきだと思います。
 例えば、「船場吉兆」のケースでは、事業者側が「賞味期限」と「消費期限」を混同していたことが報じられていました。
 また、「賞味期限」は、まだ十分に食べられる食品の大量廃棄の原因にもなっています。
 1995年以前は、「製造年月日」で表示されていました。私は、「消費期限」か「製造年月日」に統一する方が、消費者にとっても分かりやすいのではないかと思っています。

 それから、大きな改革になりますが、「食品安全行政の一元化」も検討してみる価値があるのではないでしょうか。

 私が安倍内閣で担当していた17の特命大臣職名の中に「食品安全担当大臣」というものがありました。悩みの種は、政府全体の食品安全確保体制整備に関する権限もスタッフも持たされていなかったことでした。
 つまり、食品については、「JAS法」に基づいて農林水産省が、「食品衛生法」に基づいて厚生労働省が、それぞれリスク管理を行っています。ミートホープ㈱の社長が違反容疑者となった「不正競争防止法」は経済産業省の所管です。
 食品安全担当大臣は、農林水産省や厚生労働省から諮問があった場合に、食品安全委員会による科学的な健康影響評価を行うことが主な仕事に過ぎません。

 何とか政府全体の食品安全確保体制の見直しや法改正の提案を行いたいと考え、内閣法に基づく自らの権限を調べてみたのですが、かなり抽象的なものでした。
 また、内閣府に設置されていた「食品安全担当室」は、バーチャル室と化しており、室長は食品安全委員会の事務局長が兼任しているという有様です。
 仮に、他省所管の法制度に関する改革について官邸のお許しを得られたとしても、手足となってくれるスタッフがゼロという惨状でした。
 事務次官に「食品安全担当室」をしっかりと稼動させるための常勤職員獲得を指示しましたが、国家公務員数削減目標が厳しく、政府内で専門知識をもった人材の余剰は無いという結果でした。

 それでも、秘書官とともに苦戦しながら、科学的な健康影響評価以外に幾つかの新規企画に取組みました。

 例えば、全国の消費生活センターから国民生活センターに集められる食品に関する苦情情報を、農林水産省と厚生労働省に迅速に提供することを始めました。
 昨年1月に㈱不二家の不祥事が発覚した時に、国民生活センターに問い合わせてみると、既に過去から同社に関する苦情が多数寄せられていたことが分かったからです。
 それまでは、国民生活センターの情報は、各地の相談員が参考にする情報という位置づけで、基本的に各省庁に提供することは前提とされていませんでした。

 また、内閣府に「食品の安全確保に関する研究会」を設置。
 他省庁に係るものであっても、食品行政全体の見直しをする時に役立つように、民間流通業者や食品製造業者、消費者団体の代表者にメンバーになっていただいて、現行制度の問題点の洗い出しを始めました。
 この研究会は後任大臣に引き継いでいただいており、良い成果を生み出せそうだという報告をいただきました。

 既に政府は、食品表示適正化の徹底(説明会開催・相談窓口充実)、工程管理手法導入(ISO22000、GMP)、食品表示Gメン設置、警察庁との連携協定、抜き打ち調査重点化などの対策に取組んでいます。
 また、今年4月1日からは、全加工食品の原料供給者との取引も表示義務対象になります。

 今後、JAS法、食品衛生法、不正競争防止法について、その目的と実効性を研究し、例えば「食品安全衛生表示法」といった法律に1本化し、担当大臣も1本化するようなことも、検討の価値があるのではないかと思っています。

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