起業家を増やす為に
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とても温かいお人柄でおっとりして見えるのですが、実は驚く程パワフルな小嶋禮子さんという女性がおられます。
彼女が校長先生を務める目白デザイン専門学校(東京都新宿区)が、昨秋、公立小学校高学年の児童を対象に、「ファッション・キッズ・スクール」という面白い催しをされました。
小学生対象とはいえ授業内容はかなり高度で、「商品の流れ」「販売のプロに販売を学ぶ」「流行はどうしてできるか」「お店のもうけについて学ぶ(販売管理・利益計算)」「商品を作ろう」「色について」「素材について」「CADパターンメイキング」等々。
小嶋先生の企画には、新宿区教育委員会や伊勢丹、日本ニット工業組合連合会などが協力されたのですが、告知と同時に30名の募集枠に対して150名の応募があり、即日締切りとなった程の人気ぶりでした。
彼女の意図は、まずは学校週5日制の実施を受けて、子供達に土曜日の学びの場を提供してあげようという好意でありました。
しかし、彼女は同時に子供達にモノ作りの楽しさを体験してもらうことで、次世代のファッション産業を支える人材を確保しようという気の長い目的も持っておられたのです。
つまり、専門性の高い起業家体験プログラムだったのです。
経済産業省でも、平成11年度から、優れた経営者に学校現場で講義をしていただいたり、教材を開発するなど「起業家教育促進事業」を実施しています。既に京都では、経済団体を中心に素晴らしい体制が出来ています。大学発ベンチャー支援や「創業塾」など、大学生や社会人向け起業家支援策も有ります。
自分の子供時代を振り返ってみると、身近に接した大人から受けた影響というのは実に大きかったと感じます。
小学校の卒業文集に「私はお習字の先生になりたいです」と書きましたが、これは私の通っていた書道教室の先生が素敵な女性だったことから憧れを持ったものです(結局、数年後にあまりにも書道の才能が無いことに気付いて諦めましたが・・) 。高校の特別授業に来て下さった社会人講師がされた話などは、今でも詳細に内容を覚えています。
こう考えると、学校教育課程の早い時期に経済の第一線で活躍しておられる経営者との接点を作ってあげることが、起業家を増やす上で効果的であることは疑うべくもないことです。
ところで、日本の起業家事情の現状は寒いものがあります。
IMD(スイスのビジネススクール)のランキングでは「アントレプレナーシップ(起業家精神)」の項目で、日本は49ヶ国中最下位。
グローバル・アントレプレナーシップ・モニターという団体の調査では、「起業家が社会的に評価されている」と回答した国民の割合が、米国91%、カナダ88%に比して、日本は僅か8%でした。日本では「社長」が憧れの職業ではないようです。
高度成長期に高水準だった開業率は80年代から下落を続け、現在も低水準で推移しています。(1975年から78年の開業率は5・9%で、廃業率は3・8%。1996年から99年までの開業率は3・5%で、廃業率は5・6%)
社員の所得に較べての社長の所得が欧米ほど高くないことや、開業時の資金調達難、人材確保難、販路開拓の苦労なども社長業が不人気な理由でしょう。
また、日本では企業が破綻した時に、社長個人が、わずか21万円の生活費を除く全ての財産を失ってしまうケースが殆どであることも起業に踏み切れない原因でしょう。
現在、個人保証の見直し、破産時の自由財産の範囲拡大など、法改正が検討されています。
政府は雇用対策の一環として創業支援策を講じています。平成18年までに創業件数を現在の18万件から36万件に倍増させる計画です。産業構造転換期にあって、競争力の無くなった産業からリストラされた方々が自分で事業を起こし、そこに雇用が生まれることを期待しているのです。
昨年の臨時国会では、「中小企業挑戦支援法」が成立し、株式会社や有限会社の最低資本金規制を撤廃しました。株式会社を創る時に必要な資本金は1000万円でしたが、極端な話、1円からでも株式会社を起こせます。
投資ファンド(有限責任組合)の投資対象も、株式会社のみならず中小企業全般に拡大し、プロジェクト・ファイナンスも可能になりました。
事業計画がしっかりしていれば無担保・無保証で550万円まで融資をする「新創業融資制度」も拡充し、平成15年度からは、女性と中高年の新規開業には金利を低減することとなりました。
昨年11月には「起業挑戦融資制度」を新設し独創的技術やアイデアで新事業分野を創造する方には3000万円の無担保融資が始まりました。
しかし、まずは企業環境を改善して利用者を増やさなければ、政策の成果は上がりません。
そして気の長い話ではありますが、前述したように、子供達が早い時期に将来の夢を見付けて目的を持って勉強し、次代の産業の良質な担い手となり得るきっかけを作ってあげることも大切だと思いました。