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  3. 永田町日記 平成14年1月~平成14年9月
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「日韓歴史共同研究事業」に意味はあるのか? 

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 サッカーのワールドカップ日韓共催が大成功を納めた喜びも冷めやらぬうちに、こんな事を書くと顰蹙を買うかもしれませんが、私がどうにも納得のいかない日韓共同事業が有ります。皆様は「日韓歴史共同研究事業」なるものをご存じでしょうか?

 昨年の教科書「検定」および「採択」が、内外の不当な圧力により、異常な状態の中で行われたことは、記憶に新しいところです。
 教科書検定段階から、検定に関わる当事者しか見れないはずの「白表紙本」が外部に流出し、外国からも一部マスコミからも特定教科書批判が起こりました。中韓両国からは、日本の教科書内容について修正要求がなされ、ある出版社の教科書については不採択要求までなされ、友好都市や姉妹都市に対する文化交流中止といった事態も発生しました。

 このような混乱の後、昨年10月15日の日韓首脳会談では、「歴史教科書問題に関連し、正確な歴史事実と歴史認識に関する相互理解の促進が重要であり、そのために専門家による協議の場を設けること」という合意がありました。これを受けて、日韓関係史に関する共同研究委員会を立ち上げるとともに、官民で構成される合同支援委員会を設置することとなったのです。とりあえずは2年を目途に歴史の共同研究をする様です。

 外務省の「日韓歴史共同研究委員会・事業実施案」というペーパーには、「研究成果の活用」として、「両国において政府及び関連機関、国会議員、大学等を含む研究機関、各種図書館、教科書作成者、民間等が研究成果を然るべく活用すべく、広く配布し周知させる。(中略)これらにより、学者、専門家、教科書会社等が報告書の内容を承知することとなり、将来、歴史教科書が編集される過程で参考として考慮されることが考えられる」と書いてあります。
 つまり、外務省は、日韓歴史共同研究の成果を日本の教科書内容に反映させようという考えのようです。

 一方で、文部科学省は慎重な立場を取っています。
 もともと、鳩山邦夫元文部大臣は、大臣時代に「歴史共同研究を明確に否定する答弁」を行なっていました。昨年、歴史共同研究の両国首脳合意がなされた後も、研究成果の教科書編集への反映については、文部科学省は慎重でした。1月4日付の産経新聞には、事務レベル協議の場で、文部科学省幹部が「韓国の様な国定教科書を作っているわけではなく、共同研究の成果を反映させるかどうかは教科書の執筆者が判断すること」と主張したとあります。実にまともな主張をしていただいたと私は感服しました。
 先週の衆議院文部科学委員会でも、私の質問に対して、遠山文部科学大臣は「共同研究の成果を直接日本の教科書内容に反映させるつもりはない」旨、答弁されました。

 韓国側は、事務レベル協議の段階から「過去の例を見ても、政府の強制性が排除された単純な研究は教科書問題の解決には何の力にもならない」と主張(1月4日朝鮮日報)していた様ですし、今年3月には、韓国ハンナラ党の李総裁が「教科書への成果反映を強く求める」旨、会見をしています。

 日本国内でも外務省と文部科学省の目的意識に大きな開きがあるようですし、日韓両国間の思いも食い違った状態での歴史共同研究事業、両国の溝を埋める成果は上がるのでしょうか?

 2年間の共同研究をしたところで、独立国家間で新たに歴史の共通認識を作るといったことは不可能に近いと思うのです。
 昨年5月に韓国政府から「正確な歴史記述が必要である」として日本の歴史教科書に対して35項目の修正要求が提出されたことでも明らかな通り、歴史的事象について日韓で捉え方の違う案件は多く、この食違いを無くすことが出来るとは到底思えません。

 現在進行中の紛争や通商交渉でさえも、当事国にそれぞれの大義名分や捉え方の違いがあるのですから、歴史的事象への評価や認定の仕方は国ごとに違って当たり前なのです。

 例えば、次のような食違いに答えは出るでしょうか?

1、先の大戦での原爆投下は、日本から見れば、米国に非が有ります。戦時国際法上、民間人大量殺傷や非軍事施設攻撃は禁じられているからです。しかし、トルーマン大統領は「原爆投下は正義」と言い、ブッシュ元大統領(現大統領のお父さん)は、トルーマン大統領の決断を「戦争終結を早めて米国人の命を守った。正しかった」と追認しました。

2、湾岸戦争も、イラク側は「自国領土への多国籍軍による侵略」と非難しましたが、米国のブッシュ大統領は「自由と正義と公正を守る戦い」と大義名分を語りました。

3、伊藤博文を殺した安重根は、韓国では「愛国の志士」ですが、日本では「暗殺者」とされています。また、伊藤博文は、台湾では「日本の近代化に貢献した人物」とされているそうですが、韓国では「悪人」です。

4、北方4島は、ロシアにとっても日本にとっても「自国の領土」です。

5、台湾は、台湾にとっては「独立国家」ですが、中国にとっては「中国の一部」です。

6、「国史」(韓国の国定教科書)では「女性までも挺身隊という名目で引き立てられ、日本軍の慰安婦として犠牲になったりした」と書かれていますが、日本では「挺身隊は軍需産業部門の労働力不足を補う勤労奉仕に動員された女性の事(1944年「女子挺身勤労法」)」です。

7、「中国歴史」(中国の国定教科書)では「戦後の極東軍事裁判によれば、日本軍は南京占領後6週間以内に、武器を持たない中国の国民30万人以上を虐殺した」とありますが、東京裁判起訴状では「数万人」となっており、判決認定は「20万以上」でした。

 私は、独立国家それぞれの異なる歴史観は一致しえないと思うこと、それを無理に一致させることは両方の国家の名誉や誇りを損ねること、わずか2年程度の少人数の人間による共同研究の結果が未来に渡って国家の外交や両国民の歴史観を縛ることのナンセンスさから、日韓歴史共同研究そのものに反対です。

 100歩譲って歴史共同研究に何らかの意義を見いだすとすれば、研究の結果、次のような合意がなされることです。
「日韓にはそれぞれの歴史認識の違いが有り、その隔たりは埋めようがないし、無理に一致させる必要もない。ましてや自国の子供に歴史をどう教えるかは内政事項であり国家の主権に関わることである。今後は他国の教科書への干渉は止めて、互いを尊重し合う関係になろう」。

 今年2月22日に、中国の清華大学において米国のブッシュ大統領が行ったスピーチの原稿が手元に有ります。中国の教科書についても言及されています。

「私の友人である在中国大使は、いくつかの中国の教科書には『弱い者をいじめ、貧しい者を抑圧する米国人』のことが書かれていると教えてくれた。昨年出版されたばかりの別の中国の教科書には、『FBIの特別捜査官は労働者を抑圧する為に使われている』と教えているのである。これらは、いずれも真実ではない。これらの教科書は前の時代の残滓ではあるが、誤解に導くものであり、危険である」
「実際には、米国人は、弱い者と貧しい者に特別な責任を感じている。我々の政府は、自活出来ない人々にヘルスケア、食糧、住宅を提供する為に何億ドルも支出しており、更に重要なのは、多くの市民が自らのお金と時間を使って、助けを必要としている人々を助けている事だ。米国の慈悲は国境を越えて広がっている。我々は、助けを必要としている人々への世界第一の人道援助提供国である。我が国のFBIと法執行部門の人々は、彼ら自身が犯罪や汚職と戦う為に人生を捧げている労働者なのである」

 日本の外務省は、日本の教科書内容に対する中国や韓国の修正要求を「内政干渉には当たらない」として容認しています。他国の教科書内容に干渉することが問題無しとするならば、政府は「中国や韓国の教科書に書かれている日本の姿が誤っている」という抗議はしてくれたのでしょうか。
 私自身は、他国の教科書に「修正要求」などを出すのは、明らかな「内政干渉」であり「主権侵害」だと考えており、日本政府も他国の教科書の修正要求などすべきではないと思っていますが、日本政府が今後も一方的に中韓両国の介入に甘んじるのであれば、せめてブッシュ大統領のように堂々たる「説明」くらいは行なって欲しいものです。
 中韓両国に文句を言われっぱなしの姿勢を批判された時に政府がする言い訳は、教科書検定基準の「近隣諸国条項」の存在です。しかし、これは法律でも何でもなく、実務レベルの処理基準であって「官庁内文書」に過ぎません。国際法における「国際的義務」には当事国同士の明確な合意が必要であり、日本の「官庁内文書」に他国が口出しすること自体がおかしいのです。

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