「日本型議院内閣制」を見直すべきか?」
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鈴木宗男議員問題が、証人喚問や議員辞職勧告決議案提出にまで到る大問題に発展する決め手となったのは、外務省の内部文書が野党に流出したことでした。あの内部文書によって、公共事業等に関する鈴木議員と官僚の生々しいやりとりが広く国民に知られることとなりました。
田中前外相の省内での言動が外務省内からリークされていた頃には、「内部のことをリークする外務省はひどい。内容もデッチ上げだろう。田中大臣がかわいそう」と言っていた評論家が、相手が鈴木議員だと、「鈴木議員はウソを言っているはずだ」と外務省情報を信頼した評論をされているのは、アンバランスな気もしますが、いずれにしても、鈴木議員が政策マターを越えて細かな行政事務にまで関与し過ぎた疑いは「立法府と行政府の関係」を立ち止まって考えるきっかけとなりました。
現在の世論は「政治家が役所にモノを言うのは悪」「与党の法案事前審査は悪」「議員と官僚が対話したメモは情報公開すべき」という方向に流れつつあるように見えます。
鈴木議員の問題が持ち上がってからというもの、私の部屋に法案説明に来る官僚は、必ず2~3名セットで来る様になりました。局長か課長が私に法案説明をしている間、横に座った若い官僚が黙々とメモを取っています。
現在の私は、自民党総務会副会長として、全省庁の提出予定法案に関する最終的な党内審査の場に居ますから、各省庁からの説明を毎日のように多数聴取するのですが、ここ数週間で全省庁例外なくこのスタイルに変わりました。
これまでは、法案説明に対して「これでは中小零細企業が困るという声を奈良県の経営者団体から聴いているけど運用に工夫できますか?」とか「警察関係者から聞き取ったところ、この内容では犯罪防止に実効性が無いということです。法案を修正するか、政令で書き込むことが出来ないですか?」といった意見をぶつけてきました。
国会議員は選挙で選ばれた国民の代表として行政をチェックするのが仕事だと思っていたからです。確かに日本の官僚は実務的には優秀ですが、机上で政策を考えがちですし、間違った政策を作ったとしても選挙で審判を受けません。私たち議員が、選挙区で多様な職業に従事されている有権者と触れ合う中で聴いた声を役所に伝えることで、より世の中の現状に則した法案や政策が出来るはずだという自負も有りました。
また、議院内閣制の下で、与党は内閣に閣僚を送っている関係上、政府と一体になって法案可決に責任を持つ立場です。政府の法案提出前に徹底的に官僚と議論し、党内の政調会や総務会で事前審査を行い、場合によっては必要な修正をしてもらった上で国会への提出を認めていました。
その代わり、国会で自民党に割り当てられた質問時間の殆どを、事前審査をしていない野党に譲ってきました(国会議員1人1人は平等との考えから、党所属国会議員の人数に比例した質問時間が与えられていますから、議員数の多い自民党の持ち時間は莫大。しかし、事前審査の無い野党に配慮して、自民党分の質問時間を野党議員に譲っている)。民主党や社民党の若手議員が国会質問で脚光を浴びるのを羨ましく思いながらも、政権与党の議員が我慢するのは当たり前と先輩から教えられてきました。
さて、役所がメモ取り要員の同行を始めてから、私も含めて多くの自民党議員が法案に関する自分の意見を言わなくなりました。
国民にメモを公開されても決して困らない政策的発言であっても、役所に圧力をかけたと誤解されたくないからです。
また、役所が一方的に作るメモの信憑性に、疑問を持たざるを得ない経験をしたこともその原因です。
ある日、私が某役所にとって都合の悪い指摘をしたことがあったのですが、局長が必死で言い訳をしていた時のみメモを取る手を止めた官僚がいました。かなり一方的なメモになっていることでしょう。
また、本日も外務省からメモが流出したのですが、それは僅か数日前の自民党若手議員と外務省のやりとりでした。その場で外務省側が喋ったこと(けっこう過激な発言だったそうです)を一切カットしてあって、議員が外務省側の発言に対して応じた内容のみを、悪意に満ちた表現で書いてあったのです。そのメモに名前が出ていた議員は、怒っていました。「俺は絶対にこんなこと言ってないよ。脚色してある。ひどすぎる!」
こうなってくると、役所のやろうとしてい
る政策にニコニコ大賛成しない議員は、歪曲された表現のメモを作成されて公開される可能性もあります。メモを取るのであれば、その場で作成したメモを議員にも見せてくれて、発言内容や表現に間違いが無いことを確認の後、割印を捺したコピーを双方保管するしかありません。
先輩議員の中には「外務省の内部メモが共産党に流出したことで、与党と政府の信頼関係は失われた。役人の機嫌を損ねたらメモを捏造されて議員生命を失うことだって有り得るということだ」「法案や政策に対して安心して意見も言えないのなら、事前の説明にも来るな。そのかわり、国会提出後に委員会の場で反対するぞ」と怒っている方も・・。
しかし、このまま感情論で与党と政府が対立を深めると、与党は自ら作った内閣の政策に責任を持たなくなります。与党が事前審査を止める代わりに与党議員が持ち時間一杯の国会質問を始めたら、野党も自民党から譲られていた時間を失い、別途に十分な質問時間を要求するでしょうから、1本の法案審議に要する時間は莫大なものとなり、成立する法律の数も減るでしょう。また、個々の与党議員が選挙区ウケのする行動を取り始めて政府の政策を攻撃する可能性もあり、そうなると中長期的な国益は守れません。
(ホンネを言えば、与党の事前審査が無くなると楽ちんですし、表立った活躍の場も増えるので嬉しいのです。事前に役所の法案説明を聞いたり毎朝8時からの政調会の部会に出席したりといったハードなスケジュールから開放される上、事前審査をしていないことを理由に委員会の晴舞台でたっぷり質問もさせてもらえますもの)
鈴木議員問題は、大きな政治改革の問題提起となりました。しかし、「議院内閣制の在り方」そのものを冷静に議論しないで「場当たり的改革」をすると、かえって官僚の独走を許したり国会審議が停滞したりといった悲劇が起こります。
憲法改正で「米国型の完全な三権分立」を実現して、議会の多数党であっても政府の政策に反対できるようにするか、「英国型議院内閣制」にして、多数の与党議員が政府に入り官僚抜きで政策提起から国会対策までをやるようにするか、で解決は出来ますが・・。