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『正論』6月号掲載・「教育が拓く未来」書評

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 3月末日の各紙朝刊は、「『台形の面積』復活」と見出しを打ち、来春から小学校で使用される教科書の検定結果を「ゆとり教育からの脱却」と評していた。前回の平成12年度検定では、台形面積を求める公式や帯分数計算など従来の教科書では記述されていた事項が大幅に削除されたが、学力低下を懸念する世論の高まりを受けて、今回の検定では、「発展的記述」として多くの事項が復活記述されたのだ。
 経済産業省での勤務を通じて「行き過ぎたゆとり教育が日本の産業競争力再生を阻む結果となること」に危機感を強めていた私にとっては朗報であり、喜びを感ずる反面、前回検定の薄い教科書を使用した子供たちの貴重な学びの機会が取り戻せない事に愕然とした。

 学習時間や学習内容が大幅に削減された「ゆとり学習指導要領」が実施された平成14年、遠山前文部科学大臣に「ゆとり教育の目的は何か?」と質したことがあった。
 大臣の回答は「『生きる力』を身につけさせること」というものだった。
 「『生きる力』とは一体何か?」との更問に対しては「自分で課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」との返答があった。
 私は、義務教育期間は、まず覚えるべきことを覚える時期だと思っている。大臣がおっしゃる「主体的判断」を可能にするには、その物差しとなる十分な基礎知識や世の中のルールを理解させることが不可欠であり、ゆとり教育はむしろ「生きる力」体得の障害になるのでは、と反論した。
 
 さて、冒頭に紹介した報道の5日後に出版されたのが、櫻井よしこ氏の「教育が拓く未来」である。
 第一章に「薄くて絵の多い教科書が、人材をほとんど唯一の財産として国力を築いてきたこの国の教科書である必然性とは何なのか」と問いかけ、ゆとり学習指導要領の期間に教育を受けた生徒たちの「学力難民化」を懸念する記述を見付け、タイムリーな出版に感謝しつつ、一気に読了。まさに「我が意を得たり」と何度も頷き、教員として母親として奮闘中の友人たちに私の感動を伝えまくった。
 本書の中で、櫻井氏は「書かせる教育の必要性」を伝える項にて「人に聞いた話や学んだことを、聞いた段階でわかっていても、それを第三者に伝えるとなると、何がポイントだったのか、何がそれほど素晴らしかったのか、わからなくなる体験は誰にでもあるだろう。それをさらに文字にしてみようとすると、どこから始めればよいのかわからなくなることもある」と記しているが、今の私がまさにその状況にある。
 櫻井氏の力強いメッセージをお伝え出来る文章力を持ち合わせてはいないが、是非とも1人でも多くの方に本書を手に取っていただきたいと切望する。
 櫻井氏は、ゆとり教育がもたらした学力低下の実態や、愛国心や道徳観を奪った戦後民主主義教育の失敗を糾弾しているだけではない。数多くの教育現場に足を運び、学習指導要領の縛りを超えて子供たちの学力や人間力の向上の為に努力なさっている先生方の取り組みを細かく取材している。
本書では、全国各地で志高き先生方によって実施されている優れた授業手法が豊富に紹介されており、子供たちや地域社会が生き生きと変わった様が描写されている。深い感動とともに、日本の未来への希望が見えてくる。そして、私たち大人が家庭や地域で起こすべき行動と責任の重さが理解できる。

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